日本株月次レポート:2026年3月
資本コストを意識した積極財政
日本株市場は衆院選での与党の歴史的勝利により大きく上昇し、国内外の投資家の日本株に対する関心も高まっています。投資家からの問い合わせの中で必ずと言ってもよいほど受ける質問は“金利上昇が株式市場の重しになる可能性”です。昨年10月高市総理就任以降、株高とともに長期金利も上昇しました。一般的に、金利上昇は割引率が上がり、資金調達コストが増加するため株価のマイナス要因とされます。
それにも関わらず株式市場が堅調に推移している理由は、金利上昇にともなう資本コスト上昇というマイナス要因を、名目成長率上昇のプラス要因が上回るという期待が反映されていると考えられます。長年のデフレから脱却し、賃金と物価の循環が動き出した結果として金利が上がるのであれば、企業収益拡大と名目GDP成長率の加速が金利上昇のマイナス面を吸収できると考えられます。
「高市ラリー」と強気相場を印象付ける表現がメディアで頻繁に使われています。それ以前は2023年以降続いている日本株式市場の上昇相場には名前は付けられていませんでした。東証によるガバナンス改革、AIの拡大、円安、インフレ期待など複数の構造的要因が絡み合う複合的な上昇だったためと考えます。ひとつのストーリーに依存しない相場は、ある材料が一時的に停滞しても他の要因が支える息の長い上昇が期待できるものと期待されていました(注1)。高市首相の積極財政への期待が高まった今は、その特定のストーリーが高い期待値に届かないときの反動も考慮する必要があると感じます。
積極財政と金利上昇の均衡は繊細です。財政拡張が金利を押し上げるなか、財政支出の効果が発現し十分な成長率の上昇をもたらすことができなければ、リスクプレミアムの上昇を通じた「悪い金利上昇」に転じ、株式市場上昇に水を差すことになりかねません。財政支出はカンフル剤ともたとえられ“穴を掘って埋めるだけでも有効需要を創出できる”ともいわれます。しかし、現在求められているのは一時的な景気浮揚ではなく、持続的な成長をもたらす施策であると考えます。重要な点は、生産性向上と賃金上昇を通じて潜在成長率そのものを底上げできるかということと考えます。財政支出は財政懸念と金利上昇というコスト負担が伴うものなので、それを上回る成長率を可能にするお金の使い方が必要となり、これは将来の日本経済と株式市場の行方を左右する分水嶺となると言えます。
同時に、家計も工夫が必要と感じます。約10年前、フランスの経済学者トマ・ピケティの“r>g”の不等式を提示した格差拡大のメカニズム(注2)が話題を集めました。株式や不動産などの資産を運用する富裕層は“r”(資本収益率)のペースで所得を増やし、賃金中心の家計は“g”(経済成長率)にしか連動しないため、資本収益率が経済成長率を上回り続ける限り(r>g)、資産を持つ者と持たない者の格差は広がり続けるという分析です。2008年の世界的金融危機とその後の積極的金融緩和で株式市場・不動産が上昇する現象が起き世帯間格差が拡大したという社会的背景が、当時この理論が人口に膾炙した要因と言われています。
今回も類似点が見受けられます。「K字型経済」と表現されるように、コロナ後の大規模な財政出動と金融緩和によって株価・不動産は上昇し、資産家はその恩恵を享受し、その一方で実質賃金はマイナスが継続しています。資本の収益率を享受すべく、家計にとって資産形成の重要性は増しています。
もちろん、日本の株式市場はすでに上昇しており、掘り出し銘柄を見つけ市場を出し抜くことは容易ではありません。こうした環境では、単に割安な企業を探すよりも、本質的な利益創出力をもつ事業モデルが確立された企業を長期に投資すべきと考えます。ウォーレン・バフェットの盟友、故チャーリー・マンガーは「そこそこ(フェア)の会社を割安(グレート)な価格」で買おうとするのではなく、「すばらしい(グレート)会社を適正(フェア)な価格」で買うべきと述べていました(注3)。日本のデフレ期では“生活防衛銘柄”として節約志向に訴求する企業が紹介されていました。インフレとなった現在は、信頼できる企業へ長期投資することこそが“生活防衛”となるといえます。こうした環境は、資産運用会社の運用力が真価を問われる局面と考えます。
注1:拙稿日本株月次レポート2024年2月臨時版『日経平均株価、史上最高値更新』https://jp.allianzgi.com/ja-jp/jp-insights/japan-equity-commentary/jp-equity-feb-26-2024
注2:《参考》みすず書房、トマ・ピケティ、2014年12月、『21世紀の資本』
注3:《参考》日経BP、デビッド・クラーク、2017年9月、『マンガーの投資術』