日本株月次レポート:2026年1月
飛んだイスタンブール
2025年末までの5年間でトルコの株式市場は8倍に上昇しました。無論、この驚異的な上昇は同国の年率30%を超えるインフレが要因といえます。トルコリラは急落しているため米ドル換算すると同期間の先進国株式を大きく下回ります。価値の比較を可能にするためドル換算がされますが、そのドルの実効為替レートも下落しており、対岸の火事と看過すべきではないと感じます。
2025年は安全資産が買われ、ドルと日本円は下落が顕著でした。スイスフランとユーロ、また貴金属(ゴールドとシルバー)が上昇した一方、ドルは脱ドル化の動きから下落したと解説されています。以前は安全通貨の一つとみなされていた日本円は、2025年は実効為替レートは下落しています(注1)。実質金利がマイナスであることが指摘されています。
経済学者の岩井克人氏は、金本位制から変動相場制に移行した現在において、貨幣の本源的裏付けは「予想の無限の連鎖」であると表現しています。徴税権をもつ国家と適切な物価を保つ中央銀行に対する信認と将来において他人もその信認をもちつづけると社会全体が予想することが必要と述べています。岩井氏は、恐慌時に株価が下落することは、有価証券を売却し貨幣を買うことを意味するため本質的な危機とはとらえておらず、真の危機とは、予想の無限の連鎖そのものが崩壊する現象、つまりハイパーインフレ―ションであると述べています(注2)。
基軸通貨は国際通貨としての側面が国内要因に束縛されるという基本的な弱点をもっている、という指摘もあります。2025年4月トランプ大統領が‘解放の日‘に発表した関税率は、米国の財政赤字を縮小させるためのものと解釈されています。関税率はその後の各国との交渉で引き下げられましたが、米国の国内要因に対する懸念と施策が為替市場に反映されドルの下落につながったと考えられます。経済記者であった藤井良広氏は、市場本位制の中で受け皿のないまま、覇権通貨システムが崩壊するならば、保護主義やブロック経済化への渇望が台頭する、と30年前の著書の中ですでに予言していました。この事態をさけるためには、「覇権への依存との決別」が必要と述べています(注3)。
トルコリラで生計をたてるトルコ国民にとって、トルコ株式を保有しているか否かは死活問題であったと想像します。物価上昇が顕著の日本においても、デフレ時のものさしで日本株市場をはかるべきではなく、インフレを前提とした考え方へ移行する必要を感じます。
2026年の日本株式市場に関し、当社含め多くの市場参加者が上昇方向の見通しを持っています。政府による積極財政・企業のガバナンス改革・AI投資・賃金上昇、が主なけん引役として挙げられ、経済成長と企業業績の成長の裏付けのある上昇が予想されています。「覇権への依存との決別」を可能にするためには、こうした予想が実現し日本経済が自律的好循環に入り、将来に向けてもその持続性の期待形成がすすむことが必要と考えます。
資産運用会社は、過度に楽観に偏ることなくまた不安をあおることもせず、さまざまなシナリオを考慮した知見の涵養に努め、最終受益者の資産形成に資するコミュニケーションを行うことが重要と考えます。
注1:株式市場、通貨、貴金属市況はすべてブルンバーグを参照注2:岩井克人、『二十一世紀の資本主義論』、ちくま学芸文庫、2006年、P56
注3:藤井良広、『通貨崩壊』、日本経済新聞社、1995年、P285ー286