日本株月次レポート:2月
ボトムアップによる転換点
過去20年以上日本株がほかの先進国市場に対し劣後し続けていたころ、ある企業のCFOはしばしば外国人投資家から「日本企業にはアニマルスピリッツがないのか」という質問を受けたそうです。
私自身も当社の海外オフィスのポートフォリオマネージャーや外国人投資家から同様の質問を受けた経験があります。
アニマルスピリッツとは一般に「野心的欲望」とも訳されます。
その野心的欲望を持って大胆な経営施策を打ち出す企業がなかなか出てこないことに痺れを切らしていることが窺えます。
投資の失敗を回避する意識が強すぎるため、内部留保を積み上げる企業が多いのではないか、という意味の質問と考えられます。
デフレ下において、現金比率を重視することはむしろ合理的であったと当時の経営陣は考えていたように感じます。 将来にわたってデフレ(すなわち物価が下落する一方、通貨価値は上昇)を予想しているのであれば不確実性の高い投資を行うよりも、現金のまま寝かせておくことがリスクが最も小さくかつ確実にリターンを得ることができるからです。すなわち、アニマルスピリッツを持ち出す必要がなかったといえます。
私は、現在の日本の株式市場は過去20年で3度目の転換点(過去2回は2005年小泉内閣の構造改革期待、2012年以降のアベノミクス)にあると認識しています。
第一の理由は、デフレマインドから需要牽引型インフレへの移行です。物価見通しの変化により投資に対する考え方は180度変わります。デフレ環境で最善の投資と思われていた現金保有がインフレ下(通貨価値の下落)では確実に損してしまう投資に一変しまうからです。
第二の理由は、賃金上昇期待と生産性の改善です。現在、日本の労働市場は賃金を上げないと優秀な人材を確保できない状態となっています。これにより、家計(被雇用者)側から見ると賃金の安定的な上昇の期待が高まります。結果として日本銀行が目指す需要牽引型の期待インフレ率上昇が可能となります。一方企業側は、賃金上昇という固定費の上昇を吸収して利益成長を目指すため、生産性の改善が急務となります。DX投資やAIの導入などが典型的な例といえるでしょう。これが社会全体を効率化させると思います。
そして3つ目の理由は、資本コストの認識です。東証のガバナンス改革だけでなく、機関投資家とのエンゲージメント議論などを通し、多くの日本企業の経営陣は資本は無料ではないことを認識し始めています。デフレ下でも、資本コストを考慮すればそれに見合う収益をあげる投資が必要だったと考えます。今後期待インフレ率が高まっていけば、収益拡大の機会は増えていくものと予想します。
この3つの理由から、日本企業がアニマルスピリッツを取り戻していくことに期待しています。
過去2回の転換点は政府と中央銀行によるトップダウンによる改革でした。今回は、経営の変化・ボトムアップによる転換点と認識しています。
ボトムアップの転換だからこそ、息の長い右肩上がりの市場が期待できると思います。また、ボトムアップの転換点だからこそ、企業調査力・対話力が重要となるものと考えます。