日本株月次レポート:2025年12月
エンゲージメントセミナー:アセットオーナー・企業・機関投資家の連携
2025年12月中旬、「アセットオーナープリンシプル・スチュアードシップコード・コーポレートガバナンスコードの三位一体」と題するウェブカンファレンスが開催されました。
金融庁・CSFO 高岡文訓氏(総合政策局総合政策課サステナブルファイナンス推進室長(兼)チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー)が第一部に登壇なさいました。基調講演「サステナブルファイナンスに係る金融庁の取組」のなかで、ESG要素を考慮することで長期的なリスク低減とリターンの改善が期待できる、社会課題解決を通じて経済基盤が守られ市場全体の利益につながる、という基本視点を確認するとともに、持続可能な社会実現のため新たな産業・社会構造への転換を促す官民連携の資金供給(サステナブルファイナンス)の意義を強調なさいました。
各経済主体の連携促進と、金融商品の手触り感のある説明による信頼の醸成によってサステナブルファイナンスの裾野が広げられるとの道筋も示されました。
第2部のパネルディスカッションは、柏総合研究所代表 辻本臣哉氏(元ニッポン・ライフ・グローバル・インベスターズ・シンガポールCEO)、Co-Create Frontier LLC代表 菊池勝也氏(元東京海上アセット・理事・責任投資統括)と、当社から私が登壇しました。機関投資家と企業の対話に加え、昨年策定されたアセットオーナープリンシプルによってアセットオーナーからの視座も加わり資本市場の長期的成長に資する各主体の連携を考える機会となりました。
過去10年、企業からのサステナブル情報開示の質と量は充実し投資家との対話も増加しました。多くの外国人投資家が日本株市場に資金投入する際に、ガバナンス改革というキーワードを上げること自体がコーポレートガバナンス改革が奏功してきたことの証左と考えます。
こうした中でも課題は残っていると感じます。まずガバナンス改革による株式市場の上昇は株主還元の向上に依存しており、サステナビリティと企業価値向上の同期化とまでは言えないという指摘があります。内部留保の使い道が自社株買いに偏り、社会的なプラス効果をもたらしながら成長するストーリーの議論がより求められると感じます。短期の時間軸では株主還元策は株価への効果は大きいですが、企業本来の成長戦略に必要な投資も拡大されるべきであり、その長期的な経営施策を評価できるのは、同じく長期の時間軸をもつ機関投資家とアセットオーナーであると考えます。
また、サステナビリティと企業価値向上の効果測定がむつかしいため、エンゲージメント活動に対し懐疑的な見方がある事実も指摘されました。スチュアードシップコード賛同を表明している機関投資家は、企業との建設的対話を行うことは受託者責任の一部ととらえられ、長期投資家にとっては運用活動そのものであることが議論されました。
菊池氏は著書のなかで、ESGの本質は経済の外部性を内在化させること(注1)と述べています。上場企業の外部性・社会への影響を議論する立場の機関投資家は、自社(資産運用会社)がもつ外部性にも自ら向き合う必要があると考えます。こうして同じ土俵にたつことで双方向の対話が実現し、質の高い議論へ向かうものと考えます。
この双方向の対話が、企業と機関投資家だけではなく、機関投資家とアセットオーナー間でも実践されることが重要と考えます。それぞれの主体間での信頼の連鎖をもたらすのは、中核的位置付けとなる資産運用会社の立ち振る舞いとガバナンスの質である、との辻本氏のご指摘は傾聴に値すると考えます。資産運用会社は自らも含めて、企業の社会的存在意義を問い続けることが重要と感じます。
注1)<参考>日本経済新聞出版、菊池勝也、(2021)『「対話」による価値創造』