市場の停滞とキャリーの積み上げ
要点
- 市場の見方が変化するなか、コア債券のデュレーションを戦術的に積み増す投資機会が生まれています。こうした機会を捉えるには、柔軟性の高いグローバルなアクティブ運用が有効と考えます。
- 金利の高止まりが続く環境下において、クレジットから得られる安定的なキャリー収益が債券リターンの中核として再び存在感を高めています。また、ポートフォリオの価格変動に対する重要な緩衝材としての役割も強まっています。
- 高いキャリーが期待できる通貨(米ドル以外)や新興国債券は、魅力的な収益源と分散投資先となり得ます。その収益ドライバーは、AIを巡る市場期待の継続に大きく依存していない点も特徴です。
6月の振り返り
2026年上半期の市場は、多くの投資家の予想に反する展開となりました。地政学的な緊張の高まりや主要中央銀行のタカ派姿勢を背景に、債券利回りは上昇し米ドルも反発しました。本来であればリスク回避の動きが強まると考えられていた局面でしたが、そのような展開にはなりませんでした。一方で、地政学リスクが高まるなかでも半導体関連株が市場を牽引し、世界の株式市場は過去最高値を更新しました。また、新たに就任したFRB(米連邦準備制度理事会)議長によるタカ派色の強い発言や、米国とイランの和平合意成立との見方を受けて米ドル高が進行しました。その結果、これまで注目されていた通貨価値の希薄を見込む投資戦略は巻き戻され、市場の政策金利見通しも利下げから利上げ観測へと大きく転換しました。
当社の見解
原油価格上昇リスクの後退を受け、市場は年初に見られた「インフレを伴う景気拡大」シナリオへと回帰しつつあります。クレジットスプレッドは旺盛な需要に支えられ、当面は一定のレンジ内で推移するとみられることから、キャリー収益は引き続き債券リターンの中核であり、最も安定した収益源となる可能性があります。企業のファンダメンタルズも良好です。バランスシートは健全で、利払い能力も高く、デフォルト率は低水準にとどまっています。借り換えの影響から、特にプライベートクレジット市場では一時的なストレスが生じる可能性があるものの、クレジット市場を取り巻く環境は総じて良好と考えています。
金利市場においては、市場の織り込み状況から、デュレーションを長めに取る戦略が有効とみています。 当社は、インフレ圧力がエネルギー価格以外にも大きく広がらない限り、市場が織り込むほど大幅な金融引き締めを中央銀行が実施する可能性は低いと考えています。欧州中央銀行(ECB)の利上げ、イングランド銀行(BOE)内部でのよりタカ派的な意見の広がり、そしてFRBの物価安定への姿勢強化を通じて、主要中央銀行はインフレ抑制への信認を取り戻しました。その結果、政策当局は以前よりも慎重な様子見姿勢をとっており、エネルギー価格が落ち着き、インフレ期待も安定していることから、追加利上げを急ぐ必要性は薄れています。もっとも、市場の見方は急速に変化する可能性があり、数ヵ月や数週間、場合によっては数日単位で現れ、またすぐに消える可能性があります。 こうした機会を捉えるためには、単なる静的な資産配分だけでは不十分あり、市場の変化に応じて、デュレーション、相対価値、国別・セクター別配分、リスクポジションなどを機動的に調整できる、柔軟かつアクティブな運用アプローチが求められます。
FRBについて、市場ではウォーシュ氏の初回FOMC参加をタカ派的と受け止める動きがありました。同氏は、声明文を必要最小限の内容に絞り、自身のドットチャート見通しも公表しないなど、政策運営の不確実性をこれまで以上に高めています。これはフォワードガイダンスの情報価値を低下させるものであり、政策当局が柔軟性を維持するために意図的に曖昧なコミュニケーションをとっていたグリーンスパン元FRB議長の時代を想起させます。私たちはFRBの次の一手を予測することに注力するよりも、高金利が長期化する環境を前提にポートフォリオを構築すべきだと考えます。そのような環境では、魅力的な利回り水準を背景に、安定的なインカムゲインの獲得が再び債券投資の中心的な役割となるでしょう。
より大きな視点でみると、マクロ環境を取り巻く制約条件に変化はありません。米国の大幅な財政赤字、多額の国債発行ニーズ、そして資産価格の堅調さに依存する経済構造は依然として続いています。こうした状況を踏まえると、市場が想定している以上の積極的な金融引き締めが行われる可能性は低いと考えています。特に中間選挙を控えるなかでは、なおさら限定的と考えられます。一方で、市場がよりハト派的な方向へ見方を修正するハードルはそれほど高くないとみています。景気指標の軟化やインフレの一段の鈍化に加え、AIを巡る期待の再燃なども、利上げ観測の後退につながる可能性があります。足もとでは、市場はよりタカ派的なシナリオを織り込んでいますが、追加利上げ観測が強まることよりも、むしろ現在織り込まれている引き締め期待が後退することにリスクがあると考えています。そのような展開となれば、短期的には需給や市場トレンドが米ドルを下支えするとしても、米ドル高の勢いは次第に弱まる可能性があります。私たちの長期的な見方に変わりはなく、米ドルは最終的に調整局面を迎え、現在の割高感の是正とともに、米国の「双子の赤字」の調整を促していくと考えています。
このような環境下では、デュレーションは構造的なヘッジ手段としてではなく、戦術的に活用すべきだと考えます。高格付けの短期クレジットは、インカム収益と下落耐性の両方を提供し得るほか、中国国債や人民元、一部の新興国債券は分散効果をもたらす可能性があります。インフレ環境下では、債券が常にポートフォリオの安定化に寄与するとは限りません。そうした役割は、市場環境や経済局面によって大きく左右されるようになっています。その結果、投資の重点はアセットクラスの配分から個別資産の選択へと移り、デュレーションは構造的な戦略ではなく戦術的なツールとして位置付けられます。また、クーポン収益やクレジット・キャリーが、市場ショックに対する重要な緩衝材となります。さらに、分散投資についても、地域やセクター、リスク要因を横断して意図的に構築することが求められます。こうした環境では、アクティブ運用の重要性はこれまで以上に高まっています。債券はもはや単なる分散投資手段ではなく、インカム、デュレーション、インフレ感応度、さらには代替的な収益源を組み合わせ、それぞれ異なるリスクに対応する柔軟な投資ツールへと変化しています。FRBの次の一手を予測することではなく、多様な市場シナリオに耐え得る安定したポートフォリオを構築できるかが今後のカギとなります。
今月のチャート:中南米およびアフリカの6つの発行体が年初来で9%超のリターンを記録
新興国債券は今年に入ってから堅調なリターンを上げており、中南米およびアフリカでは6つの発行体が年初来で9%を超えるリターンを記録しました。米ドル高や原油価格の高止まりが資源輸出国の追い風となり、これらの国々は外貨建てベースで力強い収入を確保しています。また、構造改革の進展を背景とする格付け引き上げもパフォーマンスを支える要因となりました。アルゼンチンの外貨建て国債は、2026年前半の信用格付けの引き上げ以降、好調に推移しました。格付け引き上げ後には債券価格が上昇し、新興国債券市場の中でも優れたパフォーマンスを示しました。表の最上位に位置するベネズエラについては、新たな指導体制の下で債務再編に向けた取り組みが始まったことを受け、同国の将来に対する楽観的な見方が広がったことが高リターンにつながっています。
出所:JP Morgan、Allianz Global Investors、2026年7月3日時点。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
今後の注目ポイント
- 米雇用統計
6月の米国の雇用者数増加は5万7,000人と鈍化しましたが、過去3か月平均では約11万人の増加となっており、依然として労働市場は比較的堅調であることを示しています(出所:米労働統計局「2026年6月雇用統計」)。FRBのケビン・ウォーシュ議長は足元ではインフレ抑制を重視する姿勢を示していますが、夏場に雇用指標がさらに軟化すれば、FRBが追加利上げを見送る根拠となる可能性があります。 -
中東情勢による不確実性
中東地域では停戦と和平プロセスが進められているものの、ホルムズ海峡の海上輸送が再開されてからわずか数日後に再び衝突が発生したことが示すように、情勢は依然として不安定です。当初懸念されていたほど原油市場は混乱していないものの、包括的な和平合意に至らなければ、高止まりするエネルギー価格を通じてインフレ圧力が長引く可能性があります。 -
AI関連投資
AIを巡る投資サイクルにピークアウトの兆候は見られませんが、株式市場におけるAI主導のモメンタムにはやや落ち着きが見られ、今後は半導体、ハードウェア、ソフトウェア、メディアといった関連分野の間で物色対象が移る可能性があります。当社では、AI関連の設備投資ブームの行方に加え、その資金調達手段として債務ファイナンスが果たす役割の拡大にも注目しています。