アジアが直面する3つのリスク
現時点でアジア太平洋地域が直面している主なリスクは3つあると考えています。具体的には、①ホルムズ海峡の閉鎖、②米国による政策金利の追加引き上げの可能性、そして③AIが牽引する輸出・設備投資ブームの恩恵が一部の企業や業種に偏る「K字型」の成長構造です。
①ホルムズ海峡の閉鎖:
6月中旬に締結された米国とイランの覚書が履行されず、両国間の軍事衝突が再燃しました。ホルムズ海峡は再開後も3週間足らずしか開放されず、その後は事実上閉鎖された状態が続いています(「今週のチャート」参照)。その結果、アジア向けの化石燃料や重要化学製品の供給には大きな制約が生じています。ただし、中国のエネルギー輸入減少と米国からのエネルギー輸出拡大が、その影響を一部緩和しています。なかでも、対外収支が脆弱で、エネルギー価格上昇の影響を受けやすく、燃料補助金制度を導入しているフィリピン、インドネシア、インド、タイなどのアジア諸国は、特に大きな影響を受けるとみられます。
②米国の政策金利引き上げの可能性:
6月に開催されたケビン・ウォーシュFRB議長就任後初のFOMC会合は、FRBにとって新たな局面の始まりとなりました。最新の経済見通し(SEP)とドットチャートでは、長らく維持されてきた金融緩和バイアスが後退しただけでなく、全体としてよりタカ派的な姿勢が鮮明となりました。米国経済が底堅さを維持し、インフレ率も目標を上回る状況が続くなか、FRBは引き続きインフレ動向に警戒的な姿勢を維持するとみられます。また、ウォーシュ議長は、FOMCが高止まりするインフレを容認しない考えを明確に示しています。インフレの鈍化が進まない場合、FRBは政策金利の追加引き上げに踏み切る可能性が高く、その結果、対外収支基盤の脆弱なアジア諸国・地域には下押し圧力がかかると考えています。
③AI主導の景気拡大がもたらす「K字型」成長構造:
世界の大手テクノロジー企業は引き続きAI関連インフラへの積極的な投資を進めており、その恩恵を受けてアジアの半導体・テクノロジーハードウェア関連国の成長が加速しています。韓国、台湾、マレーシア、シンガポール、日本、中国では、AI関連産業を中心に輸出と設備投資が力強く推移しています。一方で、フィリピン、インドネシア、タイ、インドなどの南アジア・東南アジア諸国は、AI関連産業への依存度が比較的低く、輸出や設備投資の拡大という面では他国ほどの恩恵を享受できていません。そのため、これらの国・地域では逆風が一段と強まり、輸出や投資の伸びが鈍化する可能性を懸念しています。
投資の観点では、韓国、台湾、マレーシア、シンガポール、日本、中国・香港のマクロ経済環境および株式市場に対して引き続き前向きな見方を維持しています。これらの国・地域は、ホルムズ海峡閉鎖の影響を比較的受けにくく、米国の政策金利上昇に対する耐性も高いほか、世界的なAI投資ブームの追い風を享受できると考えています。
今週のチャート
出所:米国エネルギー情報局(EIA)、AllianzGI Global Economics & Strategy、2026年8月時点。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
来週を考える
米国では、週明けの月曜日に8月のニューヨーク連銀製造業景況指数と全米住宅建設業協会(NAHB)住宅市場指数が発表されます。火曜日には、住宅着工件数や建設許可件数を含む7月の住宅関連統計が注目されます。木曜日には、8月3日および8月10日終了週の新規失業保険申請件数に加え、8月のフィラデルフィア連銀景況指数が公表される予定です。週末の金曜日には、8月のS&Pグローバル購買担当者景気指数(PMI)速報値が発表されます。対象は製造業およびサービス業で、7月の指数はそれぞれ53.9、54.6となっています。
ユーロ圏では、水曜日に7月の消費者物価指数(CPI)確報値が発表されます。なお、6月時点では総合CPIが前年同月比2.9%、コアCPIが同2.5%となっています。また、金曜日には8月のユーロ圏消費者信頼感指数の速報値が公表される予定です。
日本では、月曜日に発表される4〜6月期(第2四半期)GDPが最大の注目材料となります。実質GDP成長率は前期比0.5%で横ばいとなる一方、年率換算では第1四半期の1.8%から2.0%へ加速すると予想されています。このほか、週内には月曜日に6月の第3次産業活動指数と7月のチェーンストア売上高、水曜日に6月の機械受注、木曜日に7月の貿易統計、金曜日に全国消費者物価指数(CPI)が発表される予定です。
中国では、月曜日に発表される7月の主要経済指標が注目されます。7月の鉱工業生産は、6月の前年同月比5.3%から同4.8%へ伸びが鈍化すると予想されています。一方、小売売上高は6月の前年同月比1.0%から同1.6%へ加速する見込みです。また、木曜日には8月の最優遇貸出金利(LPR)が公表される予定です。1年物LPRは3.0%、5年物LPRは3.5%に据え置かれると見込まれています。
さまざまなリスクを乗り越え、着実なリターンを得ることを願っています。