市場展望インサイト
ブレンド・ファイナンス:運用成果と社会的価値の融合
インフラ分野には多様な投資機会がありますが、リスク面の制約から投資家の多くは先進国市場への投資にとどまっていました。しかし、ブレンド・ファイナンスの活用が進み、現在、新興国への投資機会へのアクセスは大きく広がりつつあります。
ブレンド・ファイナンスが切り拓く新たな投資の世界
魅力的なリスク調整後リターンと測定可能なインパクトの両方を実現しながら、十分に分散されたポートフォリオを構築することは容易ではありません。特に、新興国への投資機会は、投資家にとって馴染みが薄く、アクセスが難しい場合があります。また、気候変動やサステナビリティを巡る議論が依然として盛り上がりを見せる一方、多くの投資家は、それらを長期投資戦略の重要な要素として位置付けています。こうした課題に対して、従来は投資が難しかった市場やプロジェクトへの投資ルートを切り開くことのできるブレンド・ファイナンスは、有効なソリューションとなる可能性があります。
ブレンド・ファイナンスとは、公的資金と民間資金をリスク特性の異なるファンドなどの形で組み合わせ、新興国等における社会的、環境的インパクトのあるプロジェクトに民間資本の流入を促す手法です。
つまり、ブレンド・ファイナンスは、リスクを大幅に抑えながら民間投資家に新興国市場への投資機会を提供し、社会的な成果目標の達成についても支援することが可能です。また、公的機関の持つ支援機能と民間機関の持つ投資ノウハウを組み合わせることで、社会的なインパクトと投資収益の両立を目指す魅力的な投資機会が生まれます。
確かな実績を有するブレンド・ファイナンスのパイオニア
アリアンツGIは、開発金融専門チームを擁する数少ない資産運用会社の一つです。2017年以降、同チームは開発金融戦略を通じて42億米ドル超の投資コミットメントを実行してきました。これらの戦略は主に、新興国の経済発展を支えるプライベート・デット投資への資金供給を目的としており、ブレンド・ファイナンスもその重要な取り組みの一つとなっています。
投資先の選定
それでは、ブレンド・ファイナンスにおいて、どのように投資先を選定しているのでしょうか。まず、すべての投資案件に対して環境・社会・ガバナンス(ESG)分析を基本的なスクリーニングとして実施します。その目的は、投資初期段階から潜在的な環境・社会リスクを特定し評価することにあります。実効性のあるESGデューデリジェンスには、単に除外リストを適用するだけでは不十分です。
次に、投資先がもたらす社会的・環境的な便益を評価し、国連の定める持続可能な開発目標(SDGs)¹への貢献など、測定可能なインパクトの可能性を検証します。
規制面での枠組みは強化されているものの、運用会社や運用戦略がESGおよびインパクトの評価を十分に投資プロセスへ組み込めているかについては、依然として市場で懸念が残っています。アリアンツGIでは、ESGデューデリジェンスおよびインパクト評価を通じて開発金融戦略を支援する専任のインパクトチームを擁し、投資家に対して透明性の高い運用プロセスを提供しています。
アリアンツGIでは、投資プロセス全体を通じて厳格なESG基準を一貫して適用することが、ポートフォリオのパフォーマンス向上に不可欠であると考えています。また、徹底したインパクト評価と組み合わせることで、ブレンド・ファイナンス戦略の成功につながると考えています。
信用補完とブレンディング
新興国への投資では、規制上の制約、リスクを適切に評価するための情報不足、さらには現地市場への理解やプレゼンスの不足といった課題に直面することが少なくありません。また、潜在的に顕在化するリスクとして、政治情勢、信用力、資本規制による資金の送金・換金制限、税制などの市場固有の要因も挙げられます。
こうした参入障壁を克服しリスクを管理するためには、開発金融機関(DFI)や国際開発銀行との緊密な連携が重要です。これらの機関は新興国市場への主要な投資家であり続けており、多くの市場において資本流入の中心的な役割を担っています。DFIと共同で投資を行うことで、投資家は各機関が有する現地でのネットワークや案件組成の専門知識を活用できるほか、優先債権者としての立ち位置による恩恵を享受することができます。例えば、源泉税の免除や、資金の送金・換金に関する規制上の優遇措置などが挙げられます。
こうした専門性を背景に、DFIは厳しい景気循環局面においても非常に低い信用損失率を維持してきた実績があります。そのため、ブレンディングによる追加的な信用補完を加える前の段階であっても、投資対象資産は新興国投資の経験が浅い投資家が想定する以上に、良好なパフォーマンスを示す可能性があります。
開発金融機関(DFI:Development Finance Institutions)
- DFIは新興国市場における主要な投資家として豊富な経験を有しています。中央銀行や政府機関、規制当局との強固なネットワークを活かし、有望な投資機会の発掘を支援します。
- DFIとの協業は、投資案件に「ハロー効果(halo effect)」をもたらし、投資リスクの低減につながります。これにより、デフォルト発生率の低下や回収率の向上が期待できます。
- DFIは融資ポートフォリオの一部を自らのバランスシート上で継続保有するため、投資家との利害の一致が図られます。
- また、DFIは投資実行後も融資案件のモニタリングや管理を継続して行います。例えば、契約条件の変更や権利放棄が必要な場合などにおいても適切に対応をしています。
モデル・ポートフォリオにおけるファーストロス保護およびソルベンシー資本要件(SCR)の試算イメージ
※モデル・ポートフォリオにおけるファーストロス保護の試算例。なお、本モデル・ポートフォリオは説明目的のためのものであり、アリアンツ・グローバル・インベスターズが運用するいかなるポートフォリオの保有資産を表すものではありません。また、アリアンツ・グローバル・インベスターズが運用するポートフォリオが上記の投資特性を実現することを保証するものではありません。シニアNAVには、未実行保証によって保護される部分(別途表示していない)が含まれています。
信用リスクに対する懸念を軽減するため、当社は信用補完を提供する機関と緊密に連携しています。信用補完は、信用保険などの商業的な手法による場合と、公的セクターの資本を活用してブレンド・ファイナンスの仕組みにおけるファーストロス保護を提供する場合があります。
保険会社にとっては、ソルベンシー資本が限られており、スプレッド水準も低い環境下では、前者の手法が特に魅力的となる場合があります。
ブレンド・ファイナンスのスキームでは、通常、公的機関が劣後ポジションを引き受けることで、シニア投資家のリスク軽減を図ります。これにより、シニア投資家はリスクに見合ったリターンを確保しながら、比較的低ボラティリティの投資ポジションを保有することが可能となります。これは、ジュニア投資家が潜在的な損失のより大きな部分を負担することを受け入れているためです。また、こうしたストラクチャーではキャッシュフローの配分ルールが明確に定められており、シニア投資家は原資産から生じるポートフォリオ・キャッシュフローに対して優先的な受取権を有します。これらの仕組みにより、シニア投資家は収益面・元本面の双方においてダウンサイド・プロテクションを享受することができます。
機関投資家(特に保険会社)にとって、こうしたさまざまなリスク低減策は投資適格級の信用プロファイルを実現するうえで重要な役割を果たします。また、ソルベンシーII規制の下では、資本負担の軽減につながる可能性もあります。
ケーススタディ:数値で見るダウンサイド・プロテクション
シニア投資家が資本の85%を拠出し、残りの15%を未実行保証付きのジュニア資本が担う大規模なブレンド・ファイナンス戦略を想定します。シニア投資家への元本償還が完了するまで、原資産である債務投資から生じる元本返済は100%シニア投資家に優先配分されます。本事例では、45件の投資案件からなるモデル・ポートフォリオを想定し、投資期間4年、延長なしという前提で分析を行っています。
このケースでは、シニア投資家は投資開始時点で、ファンド構造に基づき投資元本の15.8%に相当するファーストロス保護の恩恵を受けます。さらに、債務の返済が進む一方でジュニア資本は償還されないため、保護水準は時間の経過とともに高まります。投下資本が最大となる時点(約5年後)には、ファーストロス保護は投資元本の約25%に達すると試算されています。したがって、この時点で投資案件の4分の1がデフォルトした場合でも、シニア投資家は持分において実現損失を被らない計算になります。さらに10年経過時点では保護水準は50%超まで拡大し、その後、シニア投資家の残存元本がファーストロス保証額の範囲内に収まる段階で、実質的に100%の保護が実現します。
キャッシュフローの優先配分がもたらす効果により、実質的には当初設定された保護水準の約2倍の効果が期待できます。
ソルベンシーIIの標準モデルを採用する投資家は、このリスク低減効果が必ずしもソルベンシー資本要件(SCR)の軽減に直接反映されるとは限りません。しかし、上記で示した保護水準は、SCRが想定する「200年に1度」規模の損失事象を上回る水準となっています。必要に応じて、標準モデルを利用する保険会社においても、このリスク低減効果を反映できるようなストラクチャリング手法を活用することが可能です。
ブレンド・ファイナンス戦略は、リスクをより抑えた新興国市場への投資機会を提供します。また、公募の新興国市場指数では十分にカバーされていないセクターや地域への投資は、より高い利回り水準が期待できるポートフォリオ分散効果をもたらす可能性があります。新興国の多くでは依然として資金調達ニーズが大きく、資本市場が十分に発達していない国も少なくありません。このような状況において、DFIとブレンド・ファイナンスの仕組みが重要な役割を果たしています。保険会社のように流動性の高いバランスシートを有する投資家にとって、プライベート市場は追加的な非流動性プレミアム、そして本稿でいう複雑性プレミアムを獲得する好機となり得ます。ブレンド・ファイナンスは魅力的な投資提案となり得るでしょう。地理的分散の観点から見ても、ブレンド・ファイナンスは伝統的な先進国市場への投資との相関が低いことが期待されます。さらに、前述の大幅なダウンサイド・プロテクション、DFIの優先債権者としてのメリット、そして同等の信用力を持つ証券に対する利回り上乗せ効果を考慮すると、ブレンド・ファイナンスは長期投資家の戦略的資産配分におけるリスク・リターン特性を向上させる可能性があります。特に保険会社のような規制の厳しい投資家にとっては、ファンド期間中にリスク軽減効果が高まることに加え、同等格付けの証券に対して有意なスプレッド上乗せを目指すリターン目標が設定されている点で、有力な投資機会となり得ます。
1 AllianzGI『Bringing Impact Investing into Private Markets』、2023年。
2 Global Emerging Markets Risk Database (GEMs), 『New statistics from GEMs Consortium Show Risk of Investing in Emerging Markets Is Lower than Commonly Perceived』、プレスリリース、2025年10月7日
3 総投資額の95%に対して15%の保護水準。