不確実性の高い環境
要点
- 投資環境が変化する中、安定したインカムを創出するためには、従来にとらわれないポートフォリオ構築が求められます。
- グローバル分散の拡大、デュレーションの機動的な管理、そしてクレジットの質の重視は、金利・株式の双方におけるボラティリティを抑制する有効な手段となります。
- 想定されるシナリオの幅が通常よりも広がる局面では、リターンの源泉としてベータよりも銘柄選択の重要性が高まります。
5月の振り返り
中東情勢の断続的な緊張と緩和の動きが、引き続き債券市場のセンチメントを左右しました。今月は、根強いインフレ圧力、英国における政治的不安定、待望された日本の金利の正常化、さらには米連邦準備制度理事会(FRB)の新議長の就任といった要因が重なりました。一方で、リスク資産は地政学的リスクを意に介さず上昇を続け、AI投資のスーパーサイクルへの期待を背景に力強く前進しました。
私たちの見解
投資環境は変化しています。現在はインフレ環境にあり、金利は上昇傾向にあります。この流れは中国の動向によってさらに強まっています。中国では、生産者物価指数(PPI)が33カ月連続でデフレを記録した後、2026年4月には前年比+2.8%(2025年10月の-2.4%から上昇)と大きく転換し、体制転換とも言える変化の兆しが見られます。これまで中国は世界的なディスインフレのアンカーとして機能してきましたが、その役割が弱まりつつあります。加えて、人民元の上昇も世界的なインフレ圧力を高める要因となっています。
金利上昇の影響は、国やセクターによってばらつきがあります。米国では、企業収益の強さ、AI主導の設備投資の拡大、さらには財政赤字の拡大に支えられ、経済成長は底堅さを維持しています。決算シーズンを通じて、S&P500企業の利益は前年比で25%以上の成長を達成し、過去3年で最も速いペースとなりました。こうしたパフォーマンスは想定以上に幅広い分野に及んでおり、セクター別の投下資本利益率(ROIC)も高水準を維持しており、資金調達コストの上昇を吸収できています。
米国における重要な論点は、この底堅さがどこまで持続するかです。AI関連投資は依然として勢いを維持している一方で、AI以外の設備投資は全体の支出のわずか1.5%にとどまり低調です。労働供給といった構造的要因が投資拡大のインセンティブを抑制していると考えられます。この状況は一つの脆弱性を示唆しており、仮にAI投資が減速すれば、米国経済の基調的な成長力が弱まっていることが顕在化する可能性があります。
米国以外では、需要面のリスクが過小評価されていると見られます。欧州やアジアのデータは、インフレ上昇と成長の鈍化を示唆しています。これまでの調整は秩序だったものでしたが、イラン情勢の影響は第1四半期の最終月にしか反映されていません。ユーロ圏の先行指標は、第2、第3四半期に一層顕著な減速を示唆しています。また、欧州や多くのアジア企業は米国企業ほど高いROICを有しておらず、金利上昇の影響を吸収する余地が限られています。
中央銀行政策の分岐は、引き続き主要なテーマとなる見通しです。米国では、新たに就任したFRB議長が、インフレ上昇、AIによる生産性向上、そしてK字型経済といった相反する要因への対応を迫られています。慎重姿勢と政策の据え置きが現時点では適切と考えられますが、エネルギーショックがコアインフレやインフレ期待に波及した場合、FRBがこれを無視することは難しくなるでしょう。一方、欧州中央銀行(ECB)の利上げはすでに市場に織り込まれていますが、これがエネルギーショックへの一時的な対応なのか、あるいは広範な金融引き締めの始まりなのかが焦点です。当面は前者と見ており、ECBは引き続きデータ重視の姿勢を維持すると考えています。
当社では、ポートフォリオ全体でデュレーションを短めに保つことを志向し、高いクーポン収入(キャリー)が期待できる高品質な社債やその他のスプレッド資産への投資を継続しています。クレジットスプレッドの縮小やプライベートデットを巡る議論がある中でも、キャリー収益の積み上げ効果とインカム需要を背景に、今後数か月はコア債よりもクレジットがアウトパフォームすると見ています。企業業績の堅調さや健全なバランスシートにより、クレジットのファンダメンタルズは引き続き良好です。また、米ドルについては弱気見通しをやや緩和していますが、相対的な成長力や商品価格の上昇が短期的には下支えとなる一方で、バリュエーションの高さを踏まえると中長期的には弱含むと見ています。
インフレ環境下においては、商品価格の上昇の恩恵を受ける国、通貨、資産へのエクスポージャーを持つことが、成長志向のポートフォリオにとって、コア債以上に有効なヘッジとなると考えています。総じて、真にグローバルなポートフォリオは、経済およびクレジットのサイクルをまたいで機会を捉え、地域やセクターの集中リスクを低減しつつ、収益源の分散を最大化することが可能です。
今月のチャート:中国でリフレーションの兆しが見られ、人民元は有力な分散投資先となる可能性がある
人民元が上昇する余地があるという見方自体は新しいものではありません。変化している可能性があるのは、そのタイミングです。中国当局は、通貨高が国内の経済構造の再調整、貿易上の目的、さらには人民元の国際化と整合的であることから、より受け入れやすくなっています。より支援的な政策スタンスのもとでは、通貨高と国際化が相互に強化し合い、好循環を生み出す可能性があります。現在も通貨のバリュエーションが抑えられている中で、中国国債は、利回りが低いものの、人民元の再評価というテーマに投資する実践的な手段となります。為替の上昇余地に加えて、先進国の債券とは異なる金利サイクルや低い相関関係により、分散効果や下方リスクの抑制といった利点も提供します。中長期的に見て、米ドルに対する人民元のロングポジションは引き続き魅力的と考えられます。
出所:Bloomberg、WIND、Allianz Global Investors、2026年6月8日時点。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
今後の注目ポイント
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新FRB議長
米連邦準備制度理事会(FRB)の新議長であるケビン・ウォーシュ氏は、インフレ圧力の高まりや制度の独立性に対する懸念が強まる中で就任しました。6月16〜17日に開催される初の連邦公開市場委員会(FOMC)は、その政策スタンスを示す手がかりとなる見込みです。ドナルド・トランプ米大統領は、ウォーシュ議長が成長重視の利下げに前向きであることを期待していますが、インフレや労働市場の強さを示すデータが、政策運営の自由度を制約する可能性があります。 -
米国の大型IPO
ロケット開発企業スペースXの新規株式公開(IPO)を行い、史上最大規模の上場となりました。このIPOは、AIおよび半導体セクターでの強いモメンタムを背景にしたものです。この上場は、テクノロジー株を中心としたリスク選好の流れをさらに加速させる可能性がある一方で、資本市場の流動性に一定の圧力をかける可能性もあります。 -
エルニーニョ現象
世界気象機関(WMO)によれば、2026年6月から8月にかけてエルニーニョ現象が発生する確率は80%とされています。高温や異常気象をもたらすこの現象は、グローバルな商品市場の不安定化やインフレ圧力の一段の高まりにつながる可能性があります。特に農業分野は影響を受けやすく、イラン情勢を背景としたエネルギー価格や肥料コストの上昇により、コメ、パーム油、コーヒーなどの作物の生産性がすでに圧迫されています。