冷え込み始める市場
北半球では、日が明らかに短くなりつつあり、長く続いた小春日和の後、気温が下がってきています。同時に、経済と資本市場も冷え込み始めています。9月の動向は、定説通りのパターンとなりました。「セル・イン・メイ・アンド・ゴー・アウェイ(5月に売り逃げよ)」という古い格言には実は後半があり、「そして、9月末に戻るのを忘れるな」と続きます。平均すると9月は、1年で最も低迷する月であり、それはドイツ株価指数DAXに限ったことではありません。
10月に入ってからも、市場のセンチメントはあまり改善していません。先週は米国の雇用の伸びがあまりにも堅調だったため、主要中央銀行による迅速な利下げが資本市場に最善の結果をもたらすと考えるハト派の期待は打ち砕かれました。同時に、イスラエルへの攻撃によって、中東における紛争が再燃しています。行方がまだ不透明なことから、原油価格の上昇は確実とみられ、この地域における今後の動向をめぐる不確実性は増すと思われます。企業の決算発表シーズンからも、興味深い示唆が得られそうです。例年通り、大手米銀がシーズンの先陣を切っています。
米労働市場はさておき、弊社独自のマクロ指数は、世界の経済指標が9月も3カ月連続で小幅に悪化していることを示しています。これまで底堅く推移してきた米国や日本などの主要先進国の景気に、明らかな冷え込みの兆候が見られます。企業マインドと消費者マインドの両方とも、この1カ月でさらに低下しており、年末まで景気の勢いの鈍化が続くことを示唆しています。同時に、若干の回復を遂げている新興市場からは心強い兆しが見えており、中国発の指標は5カ月ぶりに改善しました。プラスの需給ギャップや利幅の縮小、マイナスのマネーサプライ伸び率、逆イールドカーブなど、過去に景気低迷に先行して現れたいくつかの要因がすでに出現しています。
世界的なディスインフレの勢いは9月に鈍化したように見えます。実際、弊社のマクロ・インフレ指数は14カ月ぶりに上昇しました。世界のコアインフレ率は8月も引き続き低下したものの、消費者物価上昇率は1月以来、最も大きい月間上昇率を記録しました。有利なベース効果が薄れつつあり、エネルギー価格が再び上昇し始めていることから、わずかなディスインフレの局面もまもなく終わりを迎えるかもしれません。
要するに、国内総生産(GDP)成長率が潜在成長率を下回っていても、循環的インフレを中央銀行の長期目標に戻すためには、しばらくは金融政策の引き締めが必要となるかもしれないということです。
今週のチャート
センティックス投資家信頼感指数
来週を考える
来週火曜日は、ユーロ圏各国のZEW指数のほか、ニューヨーク州の製造業の景況感を示すニューヨーク連銀製造業景気指数、そして米国の小売売上高と鉱工業生産高が発表されます。水曜日は、ユーロ圏と英国の消費者物価が注目を集めるでしょう。その後、米連邦準備制度理事会(FRB)のベージュブックも公表されます。木曜日に発表を控えているベルギーの消費者信頼感指数は、ユーロ圏全体の状況をうかがう指標となります。同じ日に、米国の失業保険の新規申請件数と継続受給者数、そしてフィラデルフィア連銀製造業景況指数も発表されます。週を締めくくる金曜日は、ドイツと英国の生産者物価指数が発表されます。
市場関係者は、ディスインフレ傾向が止まり、場合によっては反転しているかどうかを特に注視し、その程度を見極めようとするでしょう。ディスインフレの反転は、中央銀行にとって明らかにネガティブなシグナルになります。
一方、テクニカルな状況も地政学的な状況と同様に不透明です。主要市場は重要な抵抗線を割り込んでいるものの、相対力指数からは、圧力が緩和されている、あるいはやや売られすぎであることが読み取れます。これは、差し迫った売り圧力はないことを示唆しています。最近のボラティリティの上昇を受け、市場の楽観姿勢を測る弊社の指標 (株価収益率とボラティリティを用いて、全体的なリスクアペタイトを測定)は正常な水準に戻っています。センティックス投資家信頼感指数は、地域によって大きな幅がある状況を示しています(「今週のチャート」参照)。米国の株式市場の地合いはまだ底堅いものの、アジアでは明らかに市場心理が低下しています。欧州、特にドイツでは、懸念されるほどマイナスの領域に沈んでおり、ほぼ逆指標の域に達しています。
全体的に、来週は資本市場に夏が戻ってくる可能性はなさそうです。しかし、この気候変動の時代において、気温が平年並みになることは歓迎すべきなのかもしれません。
風邪を引かないよう、ご注意ください。
1 この格言は引用される国によって、言い回しに若干の違いがあります。英国のオリジナルバージョンは、「セント・レジャー・デー(9月半ばを指す)まで戻ってくるな」です。ドイツでは、「9月に戻れ」となります。ただし、これは、過去の指数と弊社独自の計算に基づくと、少し早すぎるようです。