底堅さと金融引き締めの狭間
資本市場は再びその底力が試される局面を迎えています。いったんは市場の緊張感もやや和らいだかに見えましたが、ここ数週間で中東情勢は再び緊迫の度合いを強めています。ホルムズ海峡で続く混乱は、景気循環の観点では安定を維持しているものの、決して盤石とは言えない世界経済に影を落としています(「今週のチャート」参照)。一方で、企業業績はこれまでのところ予想以上の底堅さを示しており、人工知能(AI)をはじめとする成長分野への投資も、ほとんど減速することなく続いています。
市場を取り巻く環境は、依然として好材料と懸念材料が入り混じる状況にあります。足元では、ファンダメンタルズを示す基礎データに大きな変化は見られません。企業収益は引き続き堅調で、設備投資計画も維持されており、多くの業種における設備稼働率を見ても、景気後退が差し迫っている兆候はうかがえません。また、進行中の決算発表シーズンはこれまでのところ良好な内容となっています。S&P500指数構成企業の半数超がすでに四半期決算を発表していますが、その多くが、もともと高かったアナリスト予想を上回る業績を報告しています。こうした傾向は、とりわけテクノロジー分野で顕著です。一方、欧州株式市場でも全体としては堅調な内容となっていますが、予想を上回る企業の割合という観点では、米国ほど力強い結果にはなっていません。欧州のSTOXX600指数構成企業では、特にヘルスケア・セクターがアナリスト予想を上回る好決算を示した一方、不動産セクターでは期待に届かなかった企業の割合が高くなっています。
改めて確認できるのは、世界経済が引き続き底堅さを示しており、その強さが企業業績にも反映されているという点です。一方で、ホルムズ海峡を巡る情勢が流動的ななか、原油市場の動向は依然として最大の不確実性要因となっています。現時点で最も直接的な影響が表れているのは石油精製品市場です。ディーゼル燃料をはじめとする中間留分製品の価格プレミアムは、原油価格に対して明確に拡大しています。これは、中東地域における供給混乱が、もともと逼迫していた世界の精製能力にさらなる負荷を与えているためです。
一方、中国では政治局会議を受けて、景気支援に配慮した政策運営への姿勢がこれまで以上に鮮明になっています。世界第2位の経済大国である中国では、特にインフラ投資を中心とした固定資産投資が、2025年後半の成長を下支えすると期待されています。
こうした要因に加え、もう一つ注目すべきなのが金融政策です。これまで市場が期待していた金融緩和とは異なり、各国中央銀行が高金利政策を長期化させる可能性が高まっています。米連邦準備制度理事会(FRB)は7月の会合で、政策金利を3.50~3.75%のレンジに据え置きました。これは市場の予想どおりでしたが、注目されたのは、地区連銀総裁3名が即時利上げを支持し、9対3という異例の票差で決定された点です。ウォーシュFRB議長は、債券市場における金利水準の上昇を挙げ、金融環境の引き締めはすでに進行しているとの認識を示しました。また、インフレ率が長期間にわたり高止まりしている状況を踏まえ、必要と判断すれば追加的な政策対応をためらわない姿勢を明確にしています。コアインフレ率の一段の鈍化や労働市場の明確な減速が確認されなければ、9月および12月の会合で追加利上げが実施される可能性は高いとみられます。欧州中央銀行(ECB)も7月の理事会で従来の方針を維持し、9月に政策金利を2.5%へ引き上げる可能性が高いことを示唆しました。FRBも追加利上げに踏み切れば、その可能性はさらに高まると考えられます。また、日本銀行も直近の会合では政策金利を1%に据え置いたものの、根強いインフレ圧力と円安の再進行を背景に、9月または10月にも追加利上げに踏み切る可能性があります。日銀は最近の会合でタカ派的な姿勢を示すとともに、自国通貨安への対応策として円買い・ドル売り介入を実施しています。
資本市場の観点からみると、金利低下による支援効果を期待できる環境ではなくなりつつあります。中央銀行は、物価安定の維持、景気への配慮、そして政府の資金調達コストという課題の間でバランスを取ることを迫られています。こうした政策運営は極めて難しい舵取りであり、そこに政策判断を誤る余地というものはほとんどありません。
こうした環境認識のもと、当社の株式・債券市場に対する戦術的な資産配分の考え方は以下のとおりです。
- 当社は引き続きグローバル株式を中長期的に前向きに評価しています。ただし、中東における地政学的な不確実性の高まりと金融引き締めの進展を踏まえ、ほぼすべての地域において、これまで以上に慎重なスタンスを取っています。
- こうした不確実性の高い環境下では、戦術的な柔軟性を重視するアプローチが有効だと考えています。市場変動への機動的な対応や投資機会の活用を可能にするため、流動性の重要性が再び高まっています。
- 株式市場については、地域ごとの選別をこれまで以上に重視しています。欧州および米国以外の先進国市場については評価を「中立からやや強気」程度へ引き下げる一方、米国株式および新興国株式については相対的に魅力的とみています。これはファンダメンタルズの悪化を反映したものではなく、地政学的な展開次第で市場センチメントが急速に変化し得ることを考慮したものです。
- 地政学リスクの高まりにもかかわらず、AIは引き続き世界の株式市場における重要な投資テーマです。中国では、発達したサプライチェーンとハードウェア、AIモデル、ロボティクス分野における技術革新を背景に、AIの本格的な普及段階が始まりつつあります。
- 電化の進展とAI関連需要による電力消費の拡大は、発電設備、送配電網、および関連機器への投資を後押ししています。データセンターの急増に伴い、電力・送電インフラ関連分野は、需給逼迫の恩恵を受ける主要なセクターとなる可能性があります。
- 債券市場では、欧州周辺国の国債に対する見方をやや慎重化する一方、米国国債については中立的に評価しています。英国国債については、引き続き財政面および政治面の不透明感が重石となっています。地政学的緊張が長期化した場合、市場の焦点はインフレそのものからリスクプレミアムへと移る可能性があります。その場合、ハイイールド債券や新興国債券は特に影響を受けやすいと考えられます。
- 為替市場については、全体として均衡した見方を維持しています。ECBの比較的引き締め的な政策姿勢はユーロを下支えする要因となるものの、現時点では、米ドルに対してユーロを選好する材料は十分ではありません。
- オルタナティブ投資にも引き続き投資妙味があると考えています。ホルムズ海峡を巡る情勢が流動的なことから、原油価格の見通しは依然として不透明です。短期的にはさらなる上昇も排除できませんが、中長期的には供給体制や輸送ルートの調整が進むことで、価格上昇圧力は徐々に和らぐと見込まれます。なお、足元の供給不足は主として石油精製品市場に集中しています。一方、金は不確実性の高い局面において、引き続き安定性のある資産としての役割を果たすと考えています。
- 総じて、当社では慎重ながらも前向きな投資スタンスを維持しています。地政学リスクの高まりを受け、一部市場に対する確信度は低下しているものの、堅調な経済成長、底堅い企業業績、継続的な投資といったファンダメンタルズの良好な構図そのものは損なわれていません。
- 景気の底堅さと金融引き締めが併存する現在の環境では、重要なのはスピードではなく方向性です。原油価格の動向、中央銀行の政策運営、そして企業業績という重要なシグナルを見極めながら、柔軟性を持って投資方針を維持することができれば、この環境下でも投資機会を捉えることは可能でしょう。まさにそれが、今後数週間にわたる市場参加者の重要な課題だと考えています。
今週のチャート
出所:LSEG Datastream、AllianzGI Global Capital Markets & Thematic Research、2026年8月4日時点。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
投資テーマ: 長寿化 ― 長期化する人生に備える資産形成
- 平均寿命は何十年にもわたり延び続けており、今後もさらに長くなる可能性があります。寿命の延伸は、年齢ごとの死亡率が低下していることによるもので、言い換えれば、長生きの人が、これまで以上に長生きする可能性が高まっているということです。
- 一方で、多くの先進国では、就業者数に対する年金受給者数の割合が上昇しています。その結果、現役世代が高齢者を支える賦課方式の公的年金制度には、ますます大きな負担がかかっています。
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また、働き方も変化しています。パート勤務やマイクロリタイアメントと呼ばれる短期間の休暇をキャリアの途中で取得する働き方など、より柔軟なライフスタイルが広がっています。こうした自由な選択肢を実現するためには、給与以外の収入源を確保することが重要になります。
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長寿化は単なる健康や医療のトレンドではありません。それは、老後資金や退職後の生活設計に関わる構造的なテーマです。長生きするほど、より長い期間にわたって安定した収入が必要になるからです。
- そのため、多くの投資家にとって、配当金や債券の利息(クーポン)などから得られるインカム収入は、経済的な自由を支える重要な柱になると考えられます。
- インカム収入は、「第二の給与」として機能する可能性があります。労働所得以外の収入源を確保し、収入の不足分を補う役割が期待できます。