
岐路に立つ市場
世界中の投資家が米政権の方向転換を注視しており、この方向転換がポートフォリオにどう影響するかを思案しています。初期の指標は、市場にとって有利であるように思われます。本稿の執筆時点で、S&P 500種株価指数は、11月の大統領選挙以来5.7%上昇しています。トランプ大統領は、業界の規制緩和に向け迅速に動いており、共和党議員は新たな景気刺激策について議論しています。一方、イーロン・マスク氏の「政府効率化省」は、連邦支出の削減、政府建物の閉鎖、連邦職員の削減を進めています。
投資家にとって、トランプ2.0相場は買いでしょうか。株式強気派は、トランプ大統領の行動が、成長加速と株価上昇に一直線につながると見ています。その見方は正しいでしょうか。そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。
分かっているのは、今日のマクロ環境は、1期目のトランプ政権が引き継いだものとは異なるということです。2017年1月にトランプ氏が大統領に就任したとき、インフレ率はすでに低く、フェデラルファンド金利はゼロ付近にあり、株価は高くなく、それまでの株価の上昇は小幅で、大型の素晴らしい減税が約束されていました。投資家のアニマルスピリットを刺激した、この財政支援の期待は、トランプ大統領が2017年12月22日に1兆5,000億ドルを投じて税制改革に署名したことにより、現実のものとなりました。続いて2018年1月には関税が引き上げられました。最初のターゲットは、洗濯機と太陽光電池でした。
ひるがえって、今日の状況はどうでしょうか。トランプ大統領が引き継いだのは、力強い経済であり、株式市場は2年間ですでに50%以上も上昇しています。「今週のチャート」をご覧ください。政策の実施順序にも違いが見られます。今回は、トランプ大統領は減税措置を飛ばして、一気に関税措置へと進んでおり、ほぼ毎週、新たな発表を行っています。これは、重要なポイントかもしれません。というのも、減税に対する熱い期待を受けて2017年に20%近く上昇したS&P 500は、トランプ大統領が引き起こした貿易摩擦により、2018年は6.2%下落したからです。
トランプ1.0をさらに深掘りしてみると、2017年の減税の大部分が時限措置だったことも注目に値します。そのほとんどが2025年末に期限を迎えるため、歴史的規模の財政の崖が生じます。減税措置の延長には、4~5兆ドルのコストがかかります。これは途方もない金額であり、景気刺激につながらないことは明らかです。財政縮小を防ぐためだけに必要なコストになります。
このことは、トランプ大統領が選挙集会で掲げた、チップや社会保障、時間外労働への新たな減税措置に関する約束をどう果たすかについて疑問を投げかけています。その答えの肝心な部分が関税ではないことが願われます。関税は、不確実性、報復、そしてインフレの可能性を招くことが少なくありません。
投資家は、トランプ2.0時代に適応していく中で、トランプ1.0の再来という考えにとらわれないよう注意が必要です。米国の新大統領が進む道には、新たな課題が待ち受けています。
今週のチャート
今日のマクロ環境は、2017年ほど有利ではない

出所:Allianz Global Investors; Bloomberg; Federal Reserve; Datastream; policyuncertainty.com; US Census Bureau(2025年2月9日現在)
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
来週を考える
2024年10~12月期決算シーズンがほぼ終わった中、来週はマクロ的なイベントが中心になるでしょう。新たな関税がいつ発表されてもおかしくありませんが、米国市場はワシントン誕生日で月曜日は休場となります。
アジアでは、月曜日に鉱工業生産、火曜日に輸出入統計、木曜日に消費者物価指数(CPI)が控えている日本に投資家の注目が集まりそうです。その他の注目材料として、火曜日に中国の住宅価格、水曜日に中国人民銀行のローンプライムレートが発表されます。
欧州の投資家には、さまざまな地域・国レベルの指標が待ち受けています。主なものとして、月曜日にユーロ圏貿易収支、火曜日にインフレ指数、木曜日に消費者信頼感指数が控えています。ドイツの投資家にとって最も注目すべきは、火曜日発表のZEW景況感指数と木曜日発表の生産者物価指数です。英国については、火曜日発表の失業率、木曜日発表のCPI、金曜日発表の小売売上高が注目されます。
一方、米国の投資家の注目は、米政府が目前の政策の岐路をどう進むつもりかに集まるでしょう。他にも米国では、火曜日に米住宅建設業者の景況感を示す住宅市場指数、水曜日に住宅建築許可件数、そして金曜日には中古住宅販売戸数が発表される予定です。
岐路の先に 幸せが待っていますように。