ディスラプションの時代における安定
ディスラプション(破壊的な変化)の時代における安定、それは誰もが望んでいることに違いありません。ディスラプションは、いまや私たちの身の回りにあふれています。それは、デジタル化、脱グローバル化、人口動態といった、世界経済の脱炭素化によって増幅される長期的な構造的トレンドとして現れることもあれば、地政学的情勢、金融政策決定、2024年に世界各地で予定されている数多くの選挙といった短期的な事象として現れることもあります。それに加え、インフレが長期にわたり高止まりすることは確実と見られ、人々の購買力、ひいては人々の富をむしばんでいくでしょう。
目を引くのは、ニュースの中でリスクがより大きく取り上げられるようになっていることです。地政学リスクに関する記事を主要メディアから検索して算出される地政学リスク指数(GPR)は、ウクライナへの攻撃が始まって以来、再び低下しているものの、米国やウクライナなど一部の国では高止まりしています。不確実性を高める可能性のある経済問題に関する記事を検索しても、同様の結果が得られます。
これまでのところ、MOVE指数が示す債券市場のボラティリティの大幅上昇を除けば、資本市場はこうしたディスラプションの影響をほとんど受けずにすんでいます。株式市場は、新年早々あちこちで少し下落したとはいえ、ボラティリティははるかに低い水準です。この状況は、確かに普通ではありません。ボラティリティのミスマッチはおそらく、金融政策決定とインフレの動向によって生じていると思われます。
いずれにせよ、市場の楽観姿勢を測る弊社の指標(米国株式市場のボラティリティと12カ月先予想利益ベースの株価収益率(PER)を比較)からは、かなり楽観的な雰囲気がうかがえます。全米個人投資家協会調査によると、米国の個人投資家の間では、「強気派」(リスクを取ることに積極的な投資家)の数がここ数週間、著しく増加しています。欧州中央銀行(ECB)の指標と、セントルイス、カンザス、シカゴ各地区の連邦準備銀行の指標は、金融システムにおけるストレスレベルが(時にはかなり)低下していることを示しており、クレジット・デフォルト・スワップのプレミアムも縮小しています。
上述したディスラプション要因を考えると、金融市場の楽観姿勢は意外と言えます。幸いなことに,経済指標は若干改善しており、米国の労働市場は正常化しつつあるように見受けられます。米国がリセッションに陥る可能性はまだ除外できませんが、そのような事態を免れる確率は高まっています。
今週のチャート
S&P500種構成企業の企業利益と配当のボラティリティ、1962年~2023年12月(年率)
投資家が注目する4つのポイント
投資家にとっては、ディスラプションの時代における安定と安全なリターンの追求が続きます。そして、インフレがしばらくの間続くことから、購買力の保全が依然として最も重要な課題となります。
投資家は、次の4つのポイントに注目する必要があります。
- 低・マイナス金利時代が終わったことから、債券は再び投資可能な資産クラスになっています。
- 注意すべき点として、弊社の計算によれば、債券と株式の相関がここ数カ月低下しています。年率換算ベースではまだマイナスではないものの、ゼロに近づいています。その結果、債券が再び、マルチアセットソリューションのリスク分散に役立つ可能性があります。世界経済にショックを与えるような事態が生じた場合、債券はポートフォリオへの影響を和らげる働きをするはずです。
- 株式は、ポートフォリオのパフォーマンスをインフレ率以上に引き上げるのに役立ちます。投資家は、配当の安定化効果を過小評価すべきではありません。配当は、リスクとリターンの関係(リスクが大きいほどリターンが大きい)を打ち消すものではありませんが、企業の配当方針はかなり信頼性が高く、配当のボラティリティはごくわずかであることが、弊社の第12回配当調査から再び明らかになりました(チャート参照)。
- ついでに、貯蓄計画を考えてみるとよいかもしれません。
現在の環境下では、次のような株式と債券への戦術的な配分が妥当と考えられます。
- アナリストの利益予想は、直近の景気動向に合わせて修正されており、下方修正の割合は通常の範囲にとどまっています。企業利益予想が徐々に下方修正されるのは、よくあることです。しかし、セクター間に大きな差が見られます。
- 米国と欧州の企業は現在、収益が減少しているにもかかわらず利益率を安定的に維持できているように思われます。しかし、賃金の動向、あるいは企業の金利負担増が予想されることを考えると、利益率は今後、圧迫される可能性が高いでしょう。
- 株式相場については、一部のケースでバリュエーションがかなり強気であるため、状況が厳しくなることが予想されます。
- 株に投資する際は、慎重な銘柄選びが報われるでしょう。金融政策が抑制的で成長率が低下する中、大きなキャッシュフローの創出と強固なバランスシートが極めて重要となります。
- 債券の復活は明らかです。インフレを上回る利回りを達成して購買力を保全することは依然として難しいものの、低・マイナス利回りの時代は終わりました。
- 主要中央銀行は、主要金利を市場の予想よりも高く、長く維持する可能性が高いものの、金利はピークを付けたもようです。
- 全体として、短期的には、あるいは戦術的な観点からは、リスクの高い資産について慎重な姿勢を取ることが妥当と思われます。
- 長期的な戦略的配分を検討する場合、株式配当の安定化効果も考慮に入れる必要があります。
ディスラプションの時代でも、安定と良いリターンが得られますように。