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米国投資適格社債:高水準の利回りが牽引
2026年の米国投資適格社債市場では、スプレッドはタイトで発行も増える見通しですが、依然として高水準の総利回りがリターンの主な押し上げ要因になると見ています。
主なポイント
- 2026年の米国投資適格社債は、高いスタート利回り、堅調なマクロ環境、健全な発行体のファンダメンタルズが追い風になると考えています。
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スプレッドはタイトで、AI 関連投資や M&A 活動の再加速を背景に純発行も増加が見込まれますが、インカム収益が総合的なリターンを引き続き支えると見ています。
- 銘柄選好としては金融と公益を工業セクターより強く評価しており、AI 企業やその他テクノロジー関連企業の発行にも投資機会を見出しています。
2025年の米国投資適格社債市場は、スプレッドが年を通して長期的なボトム圏に近い状態で推移したにもかかわらず、堅調なリターンを確保しました。
関税をめぐる不透明感、地政学リスク、断続的なボラティリティといった環境下でも、市場は底堅さを維持し、強固なテクニカル要因と安定したファンダメンタルズにより、スプレッドは圧縮した状態が続きました。相対的なバリュエーションに魅力は乏しかったものの、総利回りの高さが引き続きリターンを牽引し、投資適格社債市場における「収益(インカム)」の重要性を改めて示す結果となりました。
2026年の先行きを見ると、レバレッジの安定、強いインタレスト・カバレッジ、格付け改善への継続的な偏りなど、ファンダメンタルズは引き続き良好です。総・純発行の増加はスプレッドの重しとなる可能性がある一方で、アクティブな銘柄選別に新たな機会も生み出すと考えています。ただし、政策リスクや政治リスクが高まっているため、より慎重なモニタリングが求められます。
図表1:ボラティリティと2025年のリスク資産の堅調なリターン
出所:Bloomberg Index Services、JP Morgan、Voya IM、2025年11月30日時点。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
緊張の高まる中でも堅調だった1年
2025年の金融市場は、関税をめぐる不透明感、地政学的緊張、そして長期化した米政府のシャットダウン(図表1)といった課題があったにもかかわらず、堅調さを維持しました。4月初旬に相互関税の発表を受けて市場は一時的にボラティリティが高まりましたが、貿易不安の後退と経済指標の改善により、速やかに回復しました。
年後半には、政治的な行き詰まりや大型倒産により市場の不安が再燃し、AI 主導のバリュエーション・バブルやテック企業の債務問題に対する懸念も浮上しました。それでも、断続的なボラティリティはあったものの、良好な経済環境が債券市場のリターンを下支えし、金利とスプレッドはともに年末までに低下しました。企業クレジットも堅調で、安定した成長と強固なファンダメンタルズに支えられ、米連邦準備制度の過度な引き締めに対する懸念も薄れました。
米国投資適格社債市場に目を向けると、2025年4月の「リベレーション・デー」前後の短期的なボラティリティ上昇を除けば、スプレッドは概ねマクロ要因のノイズから守られていました。4月に119bpまで拡大した後、貿易不安の緩和と堅調なテクニカル要因によりスプレッドは縮小し、9月には数十年ぶりの低水準である72bpを記録し、その後は年末にかけて78bpで着地しました。
パフォーマンスはサブセクターごとにばらつきが見られました。金融セクターは堅固なバランスシートと限定的な新規発行の恩恵を受け、工業・公益セクターをアウトパフォームしました。一方で、工業と公益は、AI関連発行の急増などテーマ性のある要因から相対的に押し下げられました。近年は起債市場から距離を置いていた複数の大手テック企業が、第4四半期にかけて大型起債を相次いで行ったことで、テック分野のスプレッドには下押し圧力がかかりました。また、供給増加は長期ゾーンにも重荷となり、発行急増により10年債と30年債のイールドカーブがスティープ化し、長期債のパフォーマンスを下押ししました。対照的に、カーブの中間ゾーンは最も良好なパフォーマンスを示し、格付帯域においてはシングルAとBBBでおおむね類似したリターンとなりました(図表2)。
図表2:米国投資適格社債では金融セクターと高流動性ゾーンがアウトパフォーム
出所:Barclays、Bloomberg、2025年12月26日時点。OAS = option-adjusted spread。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
AI投資が発行増を後押し
2026年後半に向けて、AI関連支出は引き続き経済活動を下支えすると見ています。企業がデータセンターのインフラを拡充する中で、将来のプロジェクトに向けて債券市場が主要な資金調達手段を担うと予想され、特に近い将来は投資適格社債市場が大きな役割を担うとみられます(図表3)。2026年には、ハイパースケーラー企業による起債のさらなる増加に加え、AI関連に注力するその他のテクノロジー企業からの発行も増えると予想しています。また、AIプロジェクトを支える業界、例えば公益事業やエネルギー企業などでも、設備投資の増加が見込まれます。
図表3:AI/データセンター拡張に必要な資金の多くを投資適格社債が担う見通し
出所:JP Morgan、2025年11月30日時点。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
成長の分岐に加え、昨年の大半で低迷していたものの直近で回復している M&A 活動の増加も、発行の増加を支える見通しです。より柔軟な規制環境は、来年にかけて M&A が一段と加速する可能性を示唆しています。これらの要因を受け、2026年の投資適格社債の総発行額は、この資産クラスとして過去最高を更新すると見込んでいます(図表4)。
純発行の増加見通しは、特にテクノロジーセクターにおいて、スプレッドにとってやや厳しい環境を意味します。歴史を振り返ると、大きな設備投資が行われた時期は、関連セクターのスプレッドが拡大する傾向にあります。ただし、現在の大手テック企業は、強固なバランスシートと高い格付けに支えられ、信用力は概して強い状況です。さらに、利回りが依然として魅力的な水準で始まるため、需要が供給増に対してプラスのバランス要因として機能するとみています。
需要は今後も高水準を維持すると見ています。2025年には、リテールセグメントからの資金流入が2年連続で3,500億米ドルを超えました。国内外の機関投資家にとっても、米国投資適格社債は依然として高い利回りを提供しており、過去数年で格付けの質が改善している点(投資適格の最下層である BBB– の発行体が過去最低の比率にとどまっていること)が追い風となっています。さらに、米国債のイールドカーブのスティープ化が追い風となり、歴史的にもクレジット需要の改善につながる傾向があるほか、海外投資家にとっては為替ヘッジコストの低下にもつながり、2026年は海外からの買いも増えると予想されます。こうした環境を踏まえると、発行増が見込まれるものの、需要は堅調かつバランス良く推移し、スプレッドの下支えとなると考えています。
図表4:2026年の米国投資適格社債の総発行額は記録的水準に達する可能性
出所:JP Morgan、2025年12月31日時点。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
リスク指標は低下
これらの点を踏まえると、スプレッド拡大局面があっても、依然として魅力的なリターンが実現し得ると考えています。2025年はそのよい例であり、Bloomberg US Corporate Index は年間7.77%の総合リターンを記録しました(出所:Bloomberg、2025年12月31日時点)。これは、短期間の「リベレーション・デー」での売りを除けば、年の大半でスプレッドが狭いレンジで推移していたにもかかわらず達成されたものです。
現在の利回り水準が魅力的であることに加え、デュレーションやスプレッド・デュレーションなど、投資適格社債のパフォーマンスを支える要因が他にもあります。2022年以降の利回り上昇に伴い、投資適格社債のデュレーション(金利変動に対する感応度)とスプレッド・デュレーション(スプレッド変動に対する感応度)はいずれも1年以上低下しています。これらの要因に高水準の総利回りを組み合わせると、クレジットリスクを不必要に引き上げることなく、長期的に良好なリターンを生み出す可能性があると見ています。
このような良好なリターンを支えるその他の要因としては、プラス成長と格付けの質の改善に支えられた堅調な企業ファンダメンタルズが挙げられます。年初の新規供給は金融セクターが主導しており、その多くはクレジットカーブの3〜10年ゾーンに集中しています。今後、工業や公益セクターからの発行が増加すれば、クレジットカーブがスティープ化し、長期ゾーンで投資機会が生まれる可能性があります。
投資機会を見出す領域
現時点では、M&A と対外貿易を巡る政策リスクがより顕著な工業セクターよりも、金融サービス企業および公益企業を選好しています。進行中の AI 投資サイクルも、ハイパースケーラーやその他テクノロジー発行体の魅力的な価格での新規発行を選別的に組み入れる機会を生み出すとみています。カーブの観点では、中期ゾーンを引き続きオーバーウェイトとしています。2025年には 10 ~30 年のカーブがスティープ化したものの、依然として歴史的にはタイトな水準にあり、より魅力的なレベルに到達するまでは長期ゾーンで大きくエクスポージャーを増やすことは控えたいと考えています。格付けの観点では、BBB 格付債をやや選好し、スプレッドのボラティリティに備えて一定のキャッシュも維持しています。
現在の環境では、米国投資適格社債に対して前向きなスタンスを維持しています。マクロ見通しは引き続き良好であり、発行体のクレジット・ファンダメンタルズも堅調です。スプレッドはタイトで、下方リスクも確かに存在しますが、依然高水準のスタート利回りがボラティリティ上昇局面での下支えとして機能します。レバレッジや利払い余力の安定、配当・自社株買いの抑制など、多くのクレジット指標は良好な傾向を示しています。一方、企業収益は足元で予想を上回る結果となっており、想定以上の強さを見せています。
総じて、2026年の米国投資適格社債は引き続き良好なリターンを提供する可能性が高いとみており、アクティブマネジャーが銘柄選別を通じてパフォーマンス向上に寄与できる機会も多いと考えています。