Embracing Disruption
高級ブランドの価格設定力の柱
高級ブランドは、価格決定力があるため、インフレ環境においても、魅力的な投資機会を提供する可能性があります。
要点
- インフレ水準は高止まりしていますが、利益率の高い企業は、それほど消費者の買い控えの影響を受けません。
- 複数の成長推進要因によって、高級ブランドおよび高級サービスの提供者は、コスト増加分を消費者に転嫁できる、より優位な立場にあり、高い価格設定力を確保しています。
- 高級ブランドは、経済状況の変化にもかかわらず、長期的な構造的成長および同セクターの回復力を加速する有利なトレンドをさらなる追い風として、魅力的な投資機会を提供する可能性があります。
過去数十年間において、高級ブランド・セグメントは、好調な市場ダイナミクスに後押しされ、目を見張る成長を遂げてきました。2003年~2022年にかけ、同セグメントは年平均成長率(CAGR)約6%を維持し、世界全体の個人向け高級品市場の推定価値は2022年に3,530億ユーロに達しました。同業界においては引き続き上昇トレンドが続くことが予想され、2030年まで5.9%の予想CAGRが見込まれています。
2003年~2030年の個人向け高級品*収益(予測、単位:10億ユーロ)
出所:Bain.com. 2023年6月現在
ご存じですか?
ヴェブレン効果とは、値段が高いほど高級ブランドが消費者にとってより望ましいものとなることから、価格が上昇すると高級ブランドの需要が高まるというシナリオ、つまり価格が高くなるほど需要が低下するという需要の法則が逆転している状況を説明するものです。
ヴェブレン効果とは、値段が高いほど高級ブランドが消費者にとってより望ましいものとなることから、価格が上昇すると高級ブランドの需要が高まるというシナリオ、つまり価格が高くなるほど需要が低下するという需要の法則が逆転している状況を説明するものです。 高級ブランドの過去から未来にかけての上昇軌道は、主に4つの推進要因によって加速される。
重要の弾力性の高さ
裕福になるにつれ、人は、価格感応性が低下し、高級感と固有性を求めることにより、不相応に高級なセグメントの商品を購入する傾向があります。これが、さらに、消費支出の増加につながります。高級品の価格が大幅に上昇したとしても、消費者は、購入を控えるよりも、延期することを好みます1。これにより、高級ブランド・メーカーは、もともと高い利益率を、維持またはさらに高めることができます。
生活必需品、高級品および低品質品のエンゲル曲線(EC)
エンゲル曲線は、特定の商品またはサービスに対する家計支出と家計収入の間の相関関係を説明する
Z世代の登場
Z世代の支出は、2030年にかけて他の世代の3倍の速度で増加すると予測されていますが、そのかなりの部分が高級ブランドに向かうと見られています。それは、高級ブランド品を、特にSNSやデジタルプラットフォーム上で目にすることが多くなっていることによって、この世代がこうした商品に早い段階から親しんでいるためです。実際、Bain & Companyによる報告書2によれば、2022年の高級品市場の成長はZ世代とミレニアル世代だけがその要因となっており、これらの世代は2025年における高級品への支出の70%を占めると推定されています。
その結果、高級ブランドはますますこのトレンドに対応する重要性を意識しています。ただし、これらの消費者は、過去の消費者とは大きく異なることを認識することが重要です。結果として、高級ブランド市場は、Z世代とミレニアル世代の支出増加と買い物嗜好に徐々に適応しており、抜本的な変革の最中にあります。
その1つの形が、重要な焦点としての、サステナビリティの出現です。Z世代消費者の84%が、サステナブルに製造され、倫理的に調達された製品にお金を使うことに積極的であることから、このテーマが彼らにとって極めて重要であり、購入判断に大きな影響を及ぼしていることは明らかです。
消費者および小売業に関する調査
出所:TCS Consumer Retail Survey. US Key Findings report. 2023年1月現在
高級ブランド企業は、例えば、オーガニック・コットン、リサイクル鋼、再生ポリアミド、および、漁業網や使い古したじゅうたんなどの使用済み廃棄物に由来するECONYLなどといった環境に優しい素材で作られたことを売りにする、完全なサステナブル・コレクションを売り出すことなどによって、課題に立ち向かおうとしています。
Grassroots Research®によると、高級ブランドを扱っている英国のハイエンド・マルチブランド小売業者の15社のうち10社が、リサイクル繊維、売れ残り在庫や、通常は廃棄される切れ端の利用、およびサステナブルな素材を使用した包装など、サステナビリティに関する取り組みを行っていると回答しました3。
デジタルトランスフォーメーションの活用
個人化されたショッピング体験(単なる製品のおすすめにとどまらない)からデータ分析や購入行動の予測に至るまで、店頭および店内販売における人工知能および機械学習の統合は、高級ブランドが顧客のショッピング体験に独自性を付加し、特に、広告および販売戦略においてZ世代のデジタル・ネイティブ特性を活用するために不可欠です。SNSの利用が当然である世代により、こうしたプラットフォームにより、高級品が従来よりも消費者にとってより利用しやすく、可視化された存在となっており、Z世代の78%がSNSにおいてハイエンド・ブランドをフォローしています4。
このトレンドを十分に活かすために、高級ブランドはネット上におけるプレゼンスを活用して、こうしたテクノロジーに精通した利用者とのつながりと関係を深める必要があります。
同時に、オンライン・チャネルの重要性の高まりは、高級品市場を変貌させつつあり、実店舗の優越性に挑んでいます。高級ブランドは、ブランド・ロイヤルティとアイデンティティ向上のために、単一ブランド店舗やオンライン・プラットフォームなどの、独自チャネルの確立に注力しています。この戦略的な変化は、ブランドが消費者と直接のつながりを持ち、唯一無二の体験を演出し、Z世代の嗜好に沿った独自性と真正性を醸成することを可能にするため、重要な成長の機会をもたらします。ショッピング体験の向上の背後で、人工知能が高級ブランドの製造者と高級サービス提供者のバリューチェーン全体を抜本的に変革し、流通作業および創造的プロセスに大きな影響を与えており、その影響は時間とコストを節約するオンライン店舗および実店舗の設計から、バーチャル試着や全面的なAI生成型のキャンペーンにまで及んでいます。
中産階級の拡大および高級ブランドの世界への展開
経済成長と生活水準向上による中産階級の世界的な拡大は、高級ブランド業界にとって有利に働くことが証明されつつあります。より多くの消費者の購買力が向上することによって、富裕層向けの商品やサービスに対する需要は、様々な地域および市場において高まっています。特に、インドや中国などのアジアにおける中産階級の急速な成長は、高級ブランドがそれらの市場で繁栄する大きな機会をもたらしています。
インドの中産階級は、推定7%という目覚ましい経済成長の最中にあり、EYによれば、2047年までに26兆米ドルのGDPを達成することが見込まれています5 。さらにインドでは、超富裕層(UHNWI、3,000万米ドル超の純資産を有する個人)が急増しています。実際、超富裕層の数は、過去10年で11倍増となり、インドは億万長者の数において米国、中国に次いで世界第3位につけています6。 このUHNWIの増加傾向は、最新の推定が示すように、衰えることなく続くと見られています7。
インドにおける超富裕層(UHNWI)の人数
当然、高級ブランドは、インドで成長する中産階級および上流階級の高まる願望および購買力を利用するとてつもない可能性を認識し、ますますインドにその焦点を合わせています。予測では、2023年におけるインドの高級品市場の規模は、2021年の25億米ドルの3倍を超える85億米ドルに及ぶと見られています8。
アジアにおいて、中国の消費者は、高級品購入の実に38%を占め、個人向け高級品に対する支出増のうち60%をも占めるなど、世界の高級品市場に多大なる影響を及ぼそうとしています。
この目覚ましい購入力は、Grassroots Research®の調査結果が示す通り、さらに勢いを増すと見られています9。
来年、高級品(すべての支出カテゴリーを含む)に対してどの程度支出する予定ですか。
出所:AllianzGI/Grassroots Research®, 2023年9月
価格が上昇しても、高級品に対する中国の消費者の今後の支出意欲に与える影響は僅かである10。
高インフレ率、およびお気に入りの高級セグメント製品の値上げを想定し、
10%~15%値上げされた場合、20%~25%値上げされた場合、それらの品目に対する支出を減らしますか。
出所:AllianzGI/Grassroots Research®, 2023年9月
中国は、いまだにパンデミック後の回復基調にありますが、アジア地域の他の国々 における上流および中産階級の増加に対する、高級品企業の注目が高まっています。インド・中国に次いで、世界で3番目の規模の労働者数を誇る東南アジア諸国では、中所得・高所得消費者層の拡大に向けた地ならしが進んでいます。この変化は、タイを始めとする東南アジア諸国における消費習慣の変化を反映し、2022年に43%という顕著な増加を達成したアジアの高級品市場(中国・日本を除く)の好調な実績に如実に現れています11。
長期的な価値に対する高級ブランドの揺るぎないアイデンティティ
高級品業界は、その有望な成長特性にとどまらず、経済的な逆境に対して高級品企業が示してきた回復力によって、魅力的な投資機会をもたらします。投資家に対する高級品セクターの訴求力は、有用なインフレ・ヘッジとしても役立つと同時に、安定性および長期的な価値を生み出す可能性を提供する、その高品質な商品の魅力によってさらに高まります。
世界有数の有名高級ブランドの一部は、100年以上の歴史を誇り、依然として大きな憧れの的となっています。自らを刷新し、変化する市場に適応する能力が、その時代を超えた訴求力の維持につながっています。これらのブランドは、毎年100の最も価値あるブランドを選出するインターブランドの権威あるベスト・グローバル・ブランド・リスト12の常連です。さらに印象深いのが、8つの高級ブランドが、2002年以来過去20年連続で同ランキングに名を連ねているということです。この特筆すべき実績は、高級品市場におけるこれらのブランドの揺るぎない実力と持続的な影響力を証明し、信頼すべき投資先としての地位と永続的な価値をさらに強化するものです。
1 Giorgia Gili: The elasticity of demand in the luxury market and Gucci’s case study. Libera Università Internazionale degli Studi Sociali. As of 2018/2019
2 Bain.com: Renaissance in Uncertainty: Luxury Builds on Its Rebound January 17, 2023
3 AllianzGI/Grassroots Research®, September 2023
4 VI3.com: Don’t Sleep on Gen Z: How Luxury is Attracting the New Consumer. As of June 2022
5 Ernst & Young: EY projects India to become a USD 26 trillion economy by 2047 with a six-fold increase in per capita income to USD 15,000. As of January 2023
6 Outlookindia.com: India 3rd In Billionaire Population Globally; Number of Ultra HNIs Up 11%. As of March 2022
7 Knight Frank: The Wealth Report. March 2023
8 CNBC.com: India’s luxury market set to soar to USD 200 billion by 2030. As of May 2023
9 AllianzGI/Grassroots Research®, September 2023
10 AllianzGI/Grassroots Research®, September 2023
11 Bain.com: Global luxury goods market accelerated after record 2022 and is set for further growth, despite slowing momentum on economic
warning signs. As of June 2023
12 Interbrand.com: Best Global Brands 2022 As of November 2022