緊張緩和への模索
要点
- 中東情勢の緊迫化は、典型的な地政学的ボラティリティ・ショックであり、エネルギー主導のマクロ経済ショックへと発展するリスクをはらんでいます。
- すべての当事者が緊張緩和を望んでいるものの、合意に至るには長期的な交渉が必要です。その間、コア金利は高止まりする可能性があります。
- ボラティリティは高まっているものの、金融環境は依然として概ね管理可能な水準にあり、クレジットなどのスプレッド資産やクーポンによるキャリー収益から拙速に離れる局面ではないと考えられます。
- 現在の市場の不確実性に対応するためには、投資余力(ドライパウダー)を確保しつつ、市場全体への広範なエクスポージャーよりも、バランスシートの強さと銘柄選別を重視する姿勢が重要です。
3月の振り返り
3月の市場は、戦争の影響が最大のテーマでした。紛争の長期化への懸念と、突発的な緊張緩和への期待が交錯し、特に月後半にかけて市場心理は大きく揺れ動きました。その結果、金利は上昇し、クレジットスプレッドは拡大、米ドルは上昇する展開となりました。
私たちの見解
イランとの紛争が始まってから1か月が経過し、一次的な影響はすでに明確になっています。最も直接的な影響はエネルギーショックであり、その波及は原油にとどまらず、肥料価格の上昇を通じた食料インフレや、プラスチック、化学品、ヘリウムなどの重要な原材料にまで広がっています。こうした中、米国のドナルド・トランプ大統領が事態の出口を模索していることも明らかです。ただし、意味のある合意に至るにはイランとの長期的な交渉が不可欠です。米国によるさらなるエスカレーションも、和平交渉も、早期の解決やホルムズ海峡の再開――少なくともイランへの通行料支払いを拒む船舶にとっての再開――につながる可能性は低いとみられます。
一方、市場は依然として二次的な影響を十分に織り込んでいません。長期化するサプライチェーンの混乱、中東地域における資本の毀損、企業収益への圧迫、そして最終的には成長率の低下といったリスクです。こうしたシナリオは誰にとっても好ましいものではありません。足元の市場動向は、こうした認識や政治的に緊張緩和へ向かうインセンティブが働いていることを反映しています。しかし、仮に紛争が突然終結するという楽観的な想定を置いたとしても、いわゆる「ゴルディロックス(理想的)」な環境に戻る可能性は低いでしょう。インフレ率は1か月前の予想を上回る一方で経済活動は下振れする可能性が高く、投資家はリスク資産全般で高いボラティリティが続くことを覚悟すべき局面です。
クレジット市場が概ね秩序を保っている点は、急激な金融環境の引き締まりを防ぐ意味で一定の安心材料です。ただし、不確実性が高まり、スタグフレーションのリスクが上昇する中でどのようにポートフォリオを守るべきかが最大の課題となっています。とりわけ、伝統的なヘッジ手段に資金が集中し資産間の相関が高まる局面では慎重さが求められます。債券投資において共通して言えるのは、投機よりも規律を、相場の方向性を見込んだ投資よりも質の高いキャリーを、パッシブなエクスポージャーよりもアクティブなデュレーション管理を、ベータよりも銘柄選別を、そして非流動性よりも流動性を重視する姿勢です。
国債市場では、エネルギーショックと金融政策見通しの急変を受けた大幅な再評価の結果、利回り水準が魅力的な一部の国において、選別的に短期的な投資機会が生まれています。ただし、ボラティリティの高止まりが見込まれる中では機動的かつ柔軟な運用が欠かせません。この点からも、中国国債のように過度に混雑しておらず、ファンダメンタルズに基づく分散効果が期待できる市場への投資は一考に値します。
社債市場ではリスクが非対称的に高まっていると見ており、防御的かつ質を重視したスタンスを維持しています。市場が反発する局面を活用し、より耐性の高いセクターや発行体へとリスク配分を進めています。引き続き金利変動の影響を受けにくい大手金融機関による変動金利債を選好します。
新興国市場では、経済見通しが下振れするリスクが高まる中、個別銘柄の選別がこれまで以上に重要になっています。特に、在庫バッファーや精製能力、財政余力に乏しい低・中所得国の純輸入国は、最も影響を受けやすいと考えられます。一方で、財政的な余地がありショックを吸収できる高所得国は相対的に耐性が高いといえるでしょう。
地政学的緊張が高まる局面では状況が白黒はっきりしているかのように感じられがちですが、歴史はそう単純ではないことを示しています。不確実性が高い状況が続く中でも、債券は引き続きインカム、耐性、分散効果を提供します。ただし、それは規律、選別、柔軟性をもってポートフォリオを構築していることが前提となります。
今月のチャート:主要市場の下落基調に逆行する中国オンショア債券
中国の国債および政策金融債は、中国通貨(人民元)とともに、顕著な底堅さを見せています。中東情勢を背景としたスタグフレーション懸念から、他の主要国の国債利回りが大きく上昇する一方で、イラン紛争の開始以降、中国の金利と通貨は比較的安定した動きを維持しています。世界的にインフレ圧力が再び高まり、長期的なエネルギー価格ショックを市場が消化しきれない局面において、中国資産は貴重な「逃避先」となり得る可能性があります。その背景の一つとして、現在の景気循環における中国の立ち位置が挙げられます。米国や欧州の一部が景気後半局面にあるのに対し、中国はインフレ率が相対的に低く政策運営の自由度も大きい状況にあります。さらに、中国の輸出企業が海外で得た収益を本国に還流させ、人民元へ転換する動きが強まる可能性も追い風となっています。今回の紛争は、「ペトロダラー」の優位性が、「ペトロ人民元」によって徐々に揺らぎ始める転換点となるのでしょうか。
出所:Allianz Global Investors, Bloomberg、2026年3月27日時点。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
今後の注目ポイント
- 金融環境
資金調達環境が引き続き円滑に機能していれば、地政学的緊張による経済への影響は時間をかけて吸収される傾向があります。しかし、金融環境が引き締まれば調整は急速に進み、投資の減速、バランスシートへの圧迫、さらにはボラティリティの資産横断的な波及が起こり得ます。金融環境の動向を注視することは、マクロリスクが抑え込まれているのか、それともより広範な景気後退へと発展しつつあるのかを見極める早期シグナルとなります。 - 経済指標
インフレ、雇用、景気動向に関する指標は、今回のエネルギーショックが物価や成長にどのように波及しているかを早期に示します。個々の指標が単独で決定打となる可能性は高くありませんが、4月に発表される一連のデータから得られる総合的なメッセージは、市場の信頼感、政策見通し、投資家心理を左右する重要な材料となるでしょう。特に、先行きの見通しが不透明でボラティリティが高止まりする環境下では、その影響はより大きくなります。 - 中国の関与
中国には、これ以上の混乱を避けたいという明確な経済的動機があります。外交姿勢、貿易動向、政策対応は、リスクの行方を見極める上で重要な手がかりとなります。緊張緩和、仲介、あるいはより強硬な関与へと舵を切るなど、中国の関与のあり方に変化が生じれば、情勢の展開だけでなく市場動向にも意味のある影響を及ぼす可能性があります。