安定した利回りで変動相場を乗り越える
要点
- 債券市場は、株式や商品市場と比べ引き続き落ち着きと安定を維持している。これは、「AIバブル」懸念の高まりやプライベート市場への監視強化、地政学的リスクの一段の高まりといった逆風がある中でも変わらない。
- 新興国やアジアを中心とした米国以外の資産のパフォーマンスは、現在のサイクル局面においてグローバル分散の重要性を改めて裏付けている。
- キャリーが主導する環境では、流動性とアクティブ運用が不可欠。リスク資産の下落局面に対しては、米国債が最も効果的なヘッジとなっている。
2月の振り返り
2月の米国市場は、1月に織り込まれていた楽観的な見方を再評価する展開となりました。投資家は、進展しているものの鈍化傾向にあるディスインフレ、近い将来の利下げ期待を認めない米連邦準備制度理事会(FRB)の姿勢、さらに企業収益成長やAI関連リターンの持続性に対する懸念に直面しました。インフレ指標の軟化はテールリスクの低下につながりましたが、市場心理を回復させるには至りませんでした。また、FRBによるタカ派的なメッセージ、プライベートクレジット市場の流動性リスク、急速なセクターローテーションにより、政策、成長、バリュエーションの見通しが市場の想定ほど確実ではないとの認識が強まりました。
その結果、相場は不安定な値動きとなり、銘柄間の分散が拡大し、ボラティリティが急上昇しました。一方、米国以外の市場は相対的に落ち着いた推移となり、新興国市場は引き続き高い安定性を示しました。
2月末にかけては、Nvidiaの堅調な決算が一定の安心材料となり、市場は安定を取り戻しましたが、投資家心理は引き続き脆弱な状態にあります。クレジット市場は概ね堅調で、投資適格債は安定性を維持し、ハイイールド債も良好な需給に支えられました。プライベートクレジット市場では、Blue Owl Capitalがプライベートデットファンドの償還を制限したことでリスクオフ姿勢が強まり、プライベート市場に内在する不透明性と流動性リスクが改めて意識されましたが、影響は限定的にとどまりました。
米国企業の第4四半期決算は総じて堅調でしたが、銘柄間のばらつきは拡大しました。全体として二桁の増益を達成し、メガキャップのテクノロジー企業および通信サービス企業が主な寄与となりました。他のセクターも小幅ながらプラス成長となりました。
米国の1月消費者物価指数(CPI)は前年比2.4%と市場のコンセンサス(2.5%)を下回り、2025年半ば以来の低水準となりました。1月の非農業部門雇用者数は雇用の増加が続いたものの、緩やかな減速が示され、賃金の伸びも鈍化しました。欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行(BOE)は政策金利を据え置き、慎重な姿勢を維持しました。OECD諸国の中では、オーストラリア準備銀行がインフレ再燃、民間需要の強さ、住宅市場の堅調さを背景に25bpの利上げを実施し、例外的な動きとなりました。総じて、成長とインフレ指標が予想に沿った水準にとどまる中、政策判断のタイミングに対する不確実性を反映し、多くのOECD諸国の金利カーブはフラット化の方向性を示しています。
私たちの見解
現在は典型的な強気相場の「第2フェーズ」にあります。金融環境は引き続き緩和的で、マクロ環境と企業ファンダメンタルズも概ね堅調です。しかし、銘柄固有のリスクが高まり、投資家はより厳しい目で市場を評価し始めています。利回りは高水準であり、システミックリスクも低い状態のため、キャリー獲得には依然として良好な環境です。ただし確実性は後退しており、投資家の確信度も見直されています。その結果、国・セクター・資本構成間でのパフォーマンス格差(ダイバージェンスとディスパージョン)が拡大しています。こうした環境では、広範なベータへのエクスポージャーよりも、質の高いキャリー、健全なバランスシート、そして積極的なデュレーション管理が重視されます。市場はもはややみくもなリスクテイクではなく、精度の高い選別を重要視しています。
この局面でキャリーを獲得する方法はいくつかあります。
1つは、金融機関や企業が発行するグローバルな変動金利債を活用し、デュレーション・ボラティリティを抑える方法です。変動金利債は、現金や国債に比べて流動性が高く比較的安定しており、金利変動局面でも価格変動を抑えながら利回りの上乗せを提供する可能性があります。
もう1つの方法は、グローバルで機動的なマルチセクター戦略を採用することです。具体的には、金利感応度の高い国債などの資産と、成長志向のクレジットを一つの分散されたダイナミックなポートフォリオの中で組み合わせるアプローチです。キャリーが魅力的である一方、投資家の確信が揺らぎやすい環境では、市場の方向性よりも、ポートフォリオ構築とアクティブな資産配分の方が重要になります。
株式のボラティリティは、債券により抑えることが可能です。株式市場のボラティリティが高まる中で、債券市場は歴史的に見てもタイトなレンジ内で推移しており、株式市場のセンチメントが弱まる局面でも安定化要因としての役割を果たしていることが確認できます(「今月のチャート」参照)。
今月のチャート:株式よりも高い耐性を示す社債
当社は、株式が大きく上昇した後にポートフォリオをリバランスする投資家にとって、社債(株式転換型証券を含む)は有益で補完的な役割を果たすと考えています。歴史的にも、ハイイールド債は株式に近いリターンを示しつつ、明らかに低いボラティリティで推移してきました。2月の市場動向は、この特徴を端的に示しています。Oracleの株価は9月の高値から約50%下落しましたが、同社の2030年満期の代表的な社債は同期間でわずか2%の下落にとどまりました。Zoominfoの株価は1月の高値から42%下落した一方、同社の社債は約9%の下落にとどまりました。こうした乖離は、クレジットが株式のような激しい値動きを吸収しつつ、長期的な信用リスクを全面的に織り込まないことを示しています。指数ベースで見ても、グローバル・ハイイールド債やグローバル投資適格債は、年初来でS&P500やNASDAQといった米国株指数、さらには「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる主要テック株群よりも、はるかに安定したリターンを提供しています。さらに、債券と株式の両方の特徴を併せ持つ転換社債は大幅にアウトパフォームしており、株式の上昇参加を確保しながら、下落局面ではボラティリティを抑える効果が期待できます。
出所:Bloomberg、ICE BofA、S&P and NASDAQ indices; Allianz Global Investors,、2026年2月25日時点。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
選別を重視し前向きに判断する
当社のポートフォリオでは、プライベートクレジットの主要な手段である BDC(ビジネス・デベロップメント・カンパニー) へのエクスポージャーを意図的に抑えています。これは、足元のボラティリティに反応したものではない明確な投資判断です。BDCは市場では小規模な分野ですが、複雑性が高く、下方リスクの非対称性も大きいという特徴があります。
クレジット市場には常に注意が必要なビジネスモデルが存在しますが、BDCは特に慎重な見極めが求められます。もっとも、市場全体のファンダメンタルズは概ね健全で、BBB格の発行体が中心となっていることがその裏付けです。ただし重要なのは、表面的な格付けではなく、その内側にある大きなばらつきです。プラットフォーム、アセット構成、与信姿勢、負債構造によって信用力は大きく異なり、結果も発行体ごとに分かれます。
デフォルトが再び話題に上る中、当社のアプローチは明快で、「一般化せず、個別に見る」というものです。BDC市場を引き続き注意深く監視し、適切なタイミングを待っています。スプレッドがさらに拡大し、リスクとリターンのバランスが魅力的になる局面が訪れれば、その優良銘柄に投資できるよう選別をしっかり行います。
新興国とアジア:魅力的な投資領域
2月の新興国債券(EM)のアウトパフォーマンスは、市場における分散効果だけでなく、高い耐久性を示しました。米ドル安、インフレの落ち着き、多くの新興国で中央銀行への信認が高まっていることがパフォーマンスを支えています。現地通貨建ての債券は引き続き強い成果を上げ、ハードカレンシー債もスプレッドの安定を背景に着実なキャリーを提供しました。ラテンアメリカとアフリカは、しっかりした政策運営と魅力的なキャリーを背景に有力なパフォーマンスを示しました。特にアフリカではタイトな利回りでの新規発行が相次ぎましたが、当社はあくまで選別を重視しています。産油国は地政学リスクが高まる中でも底堅さを維持し、一方、為替に敏感な市場ではボラティリティの上昇が一時的かつ限定的にとどまりました。
アジア債券は静かだが極めて堅調
アジア債券市場は落ち着いた推移ながら、高い安定性を示しました。アジア・クレジットは強い需給と改善するファンダメンタルズに支えられ、ローカル市場はその他の新興国市場に比べても低いボラティリティで取引されました。これにより、アジアはグローバル債券ポートフォリオにおける 安定化の役割 を改めて強めています。
今後の注目ポイント
- 人民元の上昇
2月の人民元は対米ドルで上昇し、2023年以来の高値を付けました。昨年のように米ドルの全面安が主因となった局面とは異なり、今回は中国人民銀行による強めの基準値設定など、より積極的な姿勢が背景にあります。当社は、この動きが中国の為替政策の重要な転換点を示しており、当局が人民元を再び強く保つ方向に舵を切った可能性があるとみています。 - 米国の銀行株
米国の銀行株は売られ、下落率は米国ソフトウェア株にほぼ匹敵しました。これは、プライベートクレジット市場のストレスが波及することへの懸念や、AIブームが銀行の収益を圧迫する可能性への不安が背景にあります。一方で、銀行のクレジットスプレッドはほとんど動きませんでした。当社としては、現時点で金融システム全体に波及するリスクを過度に懸念する必要はないと考えています。銀行のプライベートクレジットへのエクスポージャーは管理可能な範囲に留まっているためです。ただし、サイクル後半で投資家心理が揺らぎやすい局面であることから、今後の動向は注意深く見守る必要があります。 - 米国・イラン協議
米国とイランは、オマーンを仲介役としてジュネーブで3回目の協議を行っています。これは、湾岸地域で米軍の大規模な増派が進む中、イランのウラン濃縮能力を大幅に制限することを目指した動きとみられます。原油価格は7ヵ月ぶりの高値圏で推移しており、万一衝突が起きれば急騰する可能性があります。イランはOPEC加盟国の中で3番目の産油国であるためです。こうした状況から、エネルギー関連のクレジットやその他資産は、地政学リスクやリフレーション圧力に対する有効なヘッジとなり得ます。