フランス国債に注目
世界の多くの国の国債市場は、今年に入ってから借り手と投資家の双方にとって厳しい環境が続いています。景気が堅調で投資需要が旺盛な局面では、金融市場は資金の配分役として機能し、投資家はどの借り手に資金を振り向けるべきかを選別します。十分なリターンが期待できる借り手には資金が集まる一方、魅力に欠ける借り手は、より高いスプレッドやリスクプレミアムの支払いを求められることになります。AI関連の設備投資が急拡大し、多額の資金が必要とされるなか、投資家はより魅力的な投資先を選別するようになっています。その結果、投資案件としての魅力が相対的に低い借り手は、たとえ信用格付けの高い国であっても、資金調達面でこれまで以上に厳しい状況にさらされています。
こうした状況に当てはまる国はいくつかあります。今年のさまざまな局面では、同様の背景のもとで米国、日本、英国について論じることも十分可能でした。しかし、ここ数週間で特に注目を集めているのはフランスです。フランス国債の利回りスプレッドはドイツ国債に対して拡大し、その水準は15年前のユーロ危機以来見られなかったところまで達しています。それ以前に同程度まで利回り格差が広がったのは、欧州為替相場メカニズム(ERM)が強い圧力にさらされた1990年代初頭までさかのぼります。近年と比較して特に目を引くのは、イールドカーブの短期ゾーンにおけるスプレッド拡大です。例えば、2025年1月から今年6月までの期間、フランスとドイツの2年国債利回り格差は、最低で10bp強、最高で30bp強と、およそ20bpのレンジ内で推移していました。しかし、9月末直前から数日の間に状況は急変し、2年国債の利回りスプレッドはほぼ倍増して60bp超まで拡大しました。
こうした急激な市場変動は、特にレバレッジを活用する投資家にとって大きな問題となります。彼らの代表的な戦略の一つは、相対的に利回りの低い資産に対して利回りの高い資産の保有を増やし、利回り差が小さくても、目標とするリターンに到達するまでポジションを積み上げることです。このように利回りスプレッドに着目することで、個別資産を単独で売買する場合に比べて、より低いボラティリティで効率的なリスク・リターン特性を実現しようとします。しかし、こうした戦略は高いレバレッジに依存しているため、予想外の市場変動が発生すると、迅速にポジションを解消せざるを得なくなります。実際に、ここ数週間のフランス市場で起きたのがまさにそのケースでした。同様の戦略を採用していた投資家が一斉に市場から撤退した結果、フランス国債は急速に売られ、足元で見られた大幅なアンダーパフォーマンスにつながりました。
今回の急激なボラティリティ上昇によって、こうした投資戦略を採用する投資家は今後リスク量を抑えざるを得なくなり、フランス国債の新たな買い手を見つける必要が生じています。しかし、フランス国債に対する売り圧力の背景には、歴代のフランス政権が長年にわたり財政赤字や政府借入の抑制に十分な成果を上げられなかったことがあります。そのため、新たな投資家に対して「フランスへの融資に伴うリスクに見合う十分なリターンが得られる」と納得してもらうには、財政健全化への道筋を示すなど、何らかの政治的な打開策が不可欠となりそうです。
ここで特に興味深いのが、国民連合の大統領候補であるマリーヌ・ルペン氏が10月6日に行った発表です。ルペン氏は長年にわたり、政府の財政赤字削減への取り組みを批判しており、そのことが議会の膠着状態の一因ともなっていました。しかし今回、同氏は、自身が当選した場合には、2027年までに政府借入額をGDP比3.7%まで引き下げ、遅くとも2030年までには3.0%未満とすると表明しました。さらに、その後5年間でGDP比で見たフランスの政府債務残高を10ポイント削減する方針も示しました。参考までに、現政権は来年の財政赤字をGDP比5.0%未満に抑えるための政策についてさえ、議会で過半数の支持を確保できていない状況にあります。
選挙前の公約を掲げることと、実際これほど大幅な財政赤字削減を実現することは別問題です。特に、ルペン氏の政党は減税も公約しているため、目標を達成するには政府支出を大幅に削減する必要があります。教育予算の削減に対して街頭で抗議活動が行われていることからも分かるように、こうした歳出削減策には強い反発が予想されます。
それでもなお、国債利回りが、財政赤字をめぐる議論を来年の選挙戦における主要な争点へと押し上げる水準に達した可能性があります。現在の政府が選挙前に借入需要の削減に向けて大きな前進を遂げるには、政治的な対立が和らぐことが必要ですが、そうした政治的融和に期待するのは難しいように思われます。最も楽観的なシナリオであっても、市場からの圧力が今後数か月のうちに遠のくことはないでしょう。利回りスプレッドの拡大によって、市場の焦点はフランス国債に向けられています。そして、これに対して今後どのような反応が生じるのかは、なお見極める必要があります。
今週のチャート
出所:Bloomberg、Allianz Global Investors Global Capital Markets & Thematic Research(2026年10月5日現在のデータ)。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
来週を考える
来週は、米国のインフレ指標が最も重要な注目材料となります。投資家の間では、FRBによる短期的な金融引き締めへの見方が後退しており、10月に追加利上げが実施される確率は約20%にとどまっています。来週発表されるコアCPIについても、市場予想はこうした見方と整合的であり、前月比0.2%という比較的落ち着いた伸びが見込まれています。もっとも、FRBは利上げサイクルを開始したばかりであるため、投資家は実際のインフレ指標の結果に対して特に敏感に反応する可能性があります。米国ではこのほかにも、PPI(生産者物価指数。FRBが重視するインフレ指標にも影響を与える)、小売売上高、鉱工業生産、中古住宅販売件数などの経済指標が発表される予定です。
ユーロ圏では、鉱工業生産が来週の主要な経済指標となります。市場では、企業景況感調査で示されている景気の力強さが、実際の経済指標によって裏付けられるかどうかに注目が集まっています。また、このほかに9月の消費者物価指数(CPI)改定値と8月の貿易収支があり、これらが来週のユーロ圏の主要な経済データを構成することになります。
英国では、経済成長や生産関連の指標が市場予想を上回る結果となっており、企業の景況感を支える材料となっています。ただし、月末に予定されている予算案の発表までは、企業マインドの改善はある程度抑制された状態が続く可能性が高いとみられます。
最後に、中国では、消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)、そしてマネーサプライのデータが発表されます。