金利を巡る問題
ここ数週間、債券利回りは目立って上昇しています。しかし、この動きの背景にあるメッセージは決して明確ではありません。主要先進国の財政の持続可能性に対する懸念か、中央銀行の慎重姿勢なのか、それとも、景気循環の上振れによって金利が押し上げられているだけなのか。おそらく明確な答えは一つではなく、実際には複数の要因が作用していることは明らかです。そのため、債券市場と利回りの動向は、晩夏の市場における大きな問題となっています。
各国で長期金利が軒並み高水準に
国債利回りの上昇は世界的な現象となっており、とりわけ超長期ゾーンでは重要な節目を超える動きが見られています。8月には、米国30年国債利回りが5.3%を上回り、2007年以来の高水準に達しました。日本の10年国債利回りも1996年以来の高水準まで上昇しています。一方、ドイツ国債では、10年物利回りが2011年以来の高水準に達したほか、30年物利回りは15年ぶりの高水準を記録しました。
米国では、政府債務残高が初めて40兆ドルを突破した一方で、現会計年度の財政赤字は約2兆ドルに達すると見込まれており、わずか数か月前の予想を大幅に上回っています。同時に、公的部門と民間部門による資金獲得競争も強まっています。投資適格企業による今年の社債発行額はすでに約1.5兆ドルに達しており、前年をおよそ3分の1上回っています。この増加を主導しているのは大手テクノロジー企業で、AI関連投資の資金調達を目的として、これらの企業だけで約2,200億ドルを調達しています。イールドカーブの長期ゾーンを中心とした金利上昇圧力を受けて、ベッセント米財務長官は10年から30年物の米国債を対象とする買い戻しオペの拡大を発表しました。これは少なくとも、世界で最も流動性の高い債券市場においては異例の介入と言えるでしょう。もっとも、こうした措置の効果が高まるとすれば、それは財務省が財政赤字の抑制に向けた取り組みを併せて進める場合である可能性が高いと考えられます。
こうした緊張感の高い市場環境の中、年次開催されるジャクソンホール会議において、FRBのケビン・ウォーシュ議長による初の本格的な政策講演が注目を集めました。同議長は、2%のインフレ目標へのコミットメントを明確に示すとともに、インフレ率がその水準に向けて十分かつ迅速に低下しない場合には、FRBには依然として「なすべき仕事が残されている」と強調しました。これにより、金融政策運営への信認に対する懸念は幾分和らぎました。市場の反応は明確で、金融市場が織り込む9月の利上げ確率は約30%から50%超へ上昇し、それを受けて短期ゾーンの国債利回りも大きく上昇しました。これにより、年末までにあと2回の利上げが実施される可能性が高まっています。今後、9月の利上げを回避するには、8月のインフレ率が大幅に鈍化することが必要との見方が強まっています。
金利上昇をもたらすもう一つの要因
世界の債券市場が不安定な動きを続けるなか、ユーロ圏における金利上昇の一因は、予想以上に底堅い景気動向にあるとみられます。ユーロ圏経済は第2四半期に前期比0.4%成長となり、力強い設備投資と政府支出に支えられて、2025年初以来の高い伸びを記録しました。国別では、スペインが前年比2.7%成長で引き続き最も高い伸びを示しており、これにオランダ、イタリア、ドイツ、フランスが続いています。ユーロ圏最大の経済大国であるドイツも、第2四半期には0.3%成長と、当初予想を上回る結果となりました。また、Ifo企業景況感指数は8月に88.8ポイントへ上昇し、主要産業全般で景況感の改善が見られました。輸出も足元で再び持ち直しているほか、防衛やインフラ向け支出を拡大する数千億ユーロ規模の財政転換が、徐々に、そして目立たない形ながら実体経済に波及し始めています。株式市場もこうした状況を裏付けています。DAX指数とユーロ・ストックス50指数は、季節的に市場参加者が少なくなりやすい8月にもかかわらず、過去最高値を複数回更新しました。
金利を巡る問題をどう読み解くべきか
ここまで見てきたように、金利上昇の背景には複数の要因が存在しており、その影響は地域や年限によって異なります。こうした状況は、債券市場の動向を丁寧に見極めるとともに、リスクを機動的に管理することの重要性を示しています。また、いまだ解決の糸口が見えないイラン情勢も重要な要因となる可能性があります。エネルギーや原材料、食品価格の上昇がより大きく、かつ長期化するほど、追加利上げの必要性は高まり、それに伴って債券利回りにもさらなる上昇圧力がかかることが見込まれます。
こうした利回りを巡る謎を踏まえると、戦術的なポートフォリオ運営においては、以下のようなスタンスが適切と考えられます。
企業収益の力強い成長と景気の底堅さという大きな流れは引き続き続いており、株式については地域やセクターを分散したオーバーウェイトが妥当と考えられます。もっとも、特に米国株式のバリュエーションは高水準にあり、債券利回りの高止まりが続けば、株価評価の重荷となる可能性があります。
利回り上昇は投機性の高い投資プロジェクトの重荷にもなり得ます。これにはAI関連投資も含まれるでしょう。ただし現時点では、AIは依然として導入段階にあるとみられ、今後数か月にわたり導入と投資の力強い拡大が続くと期待されています。AI関連銘柄は一時的な調整を経て、再び投資妙味が高まっているように見受けられます。引き続き大きな投資機会を提供する一方、一般的な株価指数と比べて値動きが大きくなる可能性があります。
国債については、ジャクソンホール会議を受けて見通しがやや明確になりました。FRBによる年内2回の政策金利変更が織り込まれる可能性が大きく高まっており、特に米国のイールドカーブの短期ゾーンでは引き続き逆風となる可能性があります。一方、長期ゾーンではFRBの政策運営に対する信認が主要な変動要因になると考えられるほか、米議会が財政赤字抑制策で合意できるかどうかも重要な焦点となります。ただし、11月の選挙前にその実現を期待するのは難しそうです。また、米財務省による国債買い戻しオペの影響は限定的に留まるとみられます。
ユーロ圏では、9月のECBによる利上げの可能性も高まっており、2026年にも追加利上げが行われる可能性があります。そのため、ドイツ国債利回りの低下が期待できるのは、イラン情勢の改善が見え始め、中東湾岸地域からのエネルギーや資源供給の持続的な回復が確認される場合に限られるでしょう。
社債のリスクプレミアムは引き続き限定的です。特に米国企業によるAI投資関連の大型発行が続いているにもかかわらず、国債に対するスプレッドは歴史的な低水準近辺にあります。これは企業のバランスシートが依然として健全であることを反映していますが、一方で市場の期待を下回った場合の余地は限られています。銘柄選別の重要性は引き続き高いと考えられます。
米ドルは、FRBによる利上げ観測の高まりを背景に短期的には支えられる可能性があります。しかし構造的には、大幅な財政赤字や債務の持続可能性を巡る議論が重荷となっています。また、米財務省による市場介入的な措置も、米ドルにとって必ずしも好材料とは言えないでしょう。
原油価格は引き続き地政学的要因、とりわけイラン情勢に大きく左右されるとみられます。現在、原油や天然ガス価格は債券利回りにも強い影響を及ぼしており、本稿で取り上げた利回りを巡る問題の一因にもなっています。
金は、各国中央銀行による根強い需要や、米国の債務持続性を巡る議論が、中長期的な下支えとなるように見えます。ただし、ウォーシュFRB議長のタカ派的な発言を受け、短期的には一服する可能性があります。また、実質金利の上昇は利息を生まない資産である金の保有コストを高める要因にもなります。
今週のチャート
出所:LSEG Datastream、AllianzGI Economics & Strategy、2026年9月1日時点。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
投資テーマ: ロボットが働く時代へ
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金利を巡る問題について、明確な手掛かりが得られることを願っています。