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米国の債務上限問題:シャットダウンへの備えを
すでにインフレや金利の問題に立ち向かっている投資家にとって、米国の債務上限を巡る不確実性が、米ドルやリスク資産のボラティリティを上昇させる可能性が高いと弊社は考えています。
要点
- 米国政府の31兆4,000億ドルの債務上限を巡る交渉が、債務不履行(デフォルト)に陥る可能性を目前に控える中で続いています。
- 弊社はデフォルトの可能性はほぼないと考えています。多くの投資家は同じ見解のようで、今のところ市場への影響は限定的です。
- むしろ、一時的な政府機関の閉鎖(シャットダウン)の方がより可能性の高いシナリオであると弊社は考えており、その場合は市場ボラティリティの上昇リスクは残ります。
半ば定例行事化した党派争いの中で、ワシントンの政治家たちは、政府支出の資金が底をつく可能性のある6月を前に、連邦債務上限の引き上げについて協議しています。
問題となっているのは、世界最大の経済大国が新たに借り入れを行い支出を続ける能力です。シナリオには米国によるデフォルトの可能性も含まれ、それは世界経済全体に衝撃を与えます。
低いデフォルトの可能性
まず、良いお知らせです。弊社はデフォルトの確率は0.01%にすぎないと考えています。デフォルトはこれまで一度も起きていませんし、今回も起こることは考えていません。
市場も同じ考えのようです。ジョー・バイデン米大統領が率いる民主党と、下院を支配する共和党との足元における対決は、これまでのところ市場に限定的な影響を及ぼすにとどまっています。
1カ月物の米国財務省短期証券の金利は、5月19日に5.44%と直近のピークを付けました1。米国のクレジット・デフォルト・スワップ(政府のデフォルトリスクに関する市場ベースの指標)は、ピークからは低下しましたが不安定な状態が続いています。
市場が比較的楽観的である理由の1つは、おそらく投資家がこのような展開を以前にも見たことがあると感じているためです。
1917年以来、債務上限は78回引き上げられてきました。合意に至らずに、1995年に5日間と21日間の計2回、そして2013年には再び16日間にわたり政府機関がシャットダウンされました。2018年の部分的シャットダウンでは、政府のサービスは過去最長となる35日間の停止に追い込まれました。2011年は期限の2日前に合意に達しています。
しかし、現在の状況は異なります。二大政党間の政治的分裂はかつてないほど深刻です。対話の仲介がこれほど難しかったこともありません。争点はどこにあるのでしょう。共和党の念願は連邦政府支出の削減です。民主党が力を入れているのは費用のかかるエネルギー転換プログラムへの取り組みです。
現段階において弊社は、土壇場での合意、シャットダウン、デフォルトの3通りのシナリオを想定しています。前述のように、デフォルトの可能性が最も低くなっています。デフォルトは米国経済に壊滅的な打撃を与え、深刻な景気後退、資金調達難、信用コストの上昇による投資不足を引き起こします。波及効果で世界的な景気後退ショックが発生するでしょう。そして長期的には、世界における米国の政治的、経済的リーダーシップへの影響は計り知れないでしょう。
債務上限とは?
1917年に導入された債務上限は、米国政府が財政的義務を果たすために米国財務省証券の発行を通じて借り入れできる最大額を設定しています。上限額に達した場合、その引き上げには議会の票決が必須とされ、上下両院の過半数の賛成が必要です。上限額の31兆4,000億ドルには1月中旬に到達しています。5月12日に議会予算局(CBO)は、合意に達しない限り6月上旬に米国はデフォルトに陥る可能性があると示唆しました2。
より可能性が高いシナリオ:シャットダウン
弊社の見解では、より可能性が高いのは、政治家がシャットダウンを防ぐための合意期限に間に合わず、期限を過ぎた後に速やかに合意に達するというシナリオです。弊社はこのシナリオの確率を60%と見込んでいます。
後者のシナリオは、支出の一部しか凍結できないため一時的なものとなるでしょう。その場合、米国財務省は社会支出の削減および公務員の給与停止によって、債務の返済を優先する必要があるでしょう。このシナリオでは、それらの措置による経済的・政治的コストが極めて高くつくことから、共和党と民主党は迅速に合意に至るはずです。
政府のシャットダウンとは?
シャットダウンは、政府による支出の継続を可能とする資金調達関連法案を議会が承認しない場合に起こります。シャットダウン中、必要不可欠と見なされない政府機関は通常、閉鎖を余儀なくされます。必要不可欠なサービスを提供する政府職員の一部は勤務を継続します。ただし、シャットダウンを終了させる措置を議会が講じるまで給与は支給されません。失業手当などの給付金は通常継続され、米国財務省による政府債務の利払いも行われます。
市場にとって債務上限問題の不確実性が意味するところは?
すでにインフレや金利の問題に立ち向かっている投資家にとって、債務上限交渉はしっかりとしたかじ取りが求められるもう1つの要因です。
この状況によって米ドルとリスク資産のボラティリティが高まる可能性があります。新たな市場の不確実性は成長見通しをさらに鈍化させ、米国連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ局面の最高点に到達したという考えの裏付けとなるでしょう。この環境は、米国の長期金利に有利に働くものと考えられ、米国債の調整局面では米国金利商品のデュレーションを長期化すべきという弊社の考えを支えるものです。
1 出所:Bloomberg data, 2023年5月19日
2 出所:CBO sees US default in first half of June without debt ceiling increase | Reuters, 2023年5月12日
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