正常化?
イランでの紛争が始まって約2カ月が経過しましたが、資本市場は驚くほど落ち着いた様子を見せています。エネルギー価格は不安定で高止まりしており、地政学的・地経学的な不確実性も依然として高い水準にあるものの、株式や社債をはじめとするリスク資産は極めて底堅く推移しています。投資家にとっての問題は、この自信が妥当なのか、それとも潜在的な危険を見逃しているのかということです。その答えを探るべく、最近の市場動向とその背景にある見方を簡潔に分析します。
最近の市場の動きをどう解釈すべきか
中東での戦争が始まって以来、原油市場は危機の度合いを測る指標の役割を果たしています。年初時点では、原油市場がわずかに供給過剰になると見る市場参加者が多数を占めていました。当時、ブレント原油は1バレル=60ドル近辺で取引されており、2021年以来の安値をつけていました。軍事的エスカレーションの兆候が強まるにつれ、政治的リスクプレミアムが徐々に原油価格に上乗せされ、2月にかけ約10ドル上昇しました。戦争が激化した局面では一時120ドル近くまで急騰し、その後いったん90ドルまで下落しました。本稿執筆時点では、再び105ドルを超える水準に戻っています。原油先物も急騰しました。2027年春に受け渡される原油の先物価格は、60ドルから一時85ドルまで上昇し、現在は80ドル前後で落ち着いています。要するに、原油市場では供給リスクの長期化が織り込まれつつあるということです。ホルムズ海峡が事実上通航できない状態が長引くほど、世界市場への原油供給が失われ続けることを考えれば、これは当然の帰結と言えます。
エネルギー価格の上昇に伴うインフレ懸念は国債利回りにも波及し、短期間で目立った上昇を見せています。米国では、2年債利回りが約30bp上昇し、10年債利回りも約15bp上昇しました。ドイツでは、2年債利回りが40bp超上昇し、10年債利回りも15~20bpの上昇となりました。イールドカーブの短期ゾーンの動きがより急激だったことは、中央銀行の金融政策に対する市場の期待の見直しが進んでいることを示しています。欧州中央銀行(ECB)については、市場は利上げの確率が高いとみている一方、米連邦準備制度理事会(FRB)については利下げの可能性が後退しているとみています。同様に、スワップ市場が示唆する今後1年の期待インフレ率も、米欧双方で急上昇しました。ECBによる直近の調査などからも、消費者のインフレ期待が大幅に上昇していることが示されています。
クレジット市場は比較的平穏を保っています。社債のリスク尺度であるクレジットスプレッドは3月に拡大したものの、その後米国を中心にイラン戦争前の水準近くまで戻しています。株式市場でも、同様の状況が見られます。MSCIワールド・インデックスと米国の主要指数は紛争前の水準を上回って取引されています。ただし、欧州の主要指数は紛争前の水準を下回ったままです。最も好調なパフォーマンスを示しているのは、米国のフィラデルフィア半導体指数(SOX)と、韓国や台湾といったテクノロジー比率の高いアジア市場です。対照的に、消費関連セクターは個人消費の鈍化やマージン悪化リスクが重しとなって出遅れが続いています。市場の潮流は明確であり、人工知能(AI)インフラのプロバイダーを中心とした構造的な成長見通しが相場を主導しています。最も好調なテック関連テーマを除けば、消費者心理や景気敏感セクターへの信頼感は、著しく抑制されています。
為替市場では、従来の安全資産としての米ドルの魅力がこのところ薄れています。このことは、市場がエネルギー供給面での米国の優位性をそれほど重視しなくなったか、あるいは他地域における機会に再び注目していることを示唆しています。
自信か、過信か
株式市場とクレジット市場に見られる楽観論を裏付ける材料がいくつかあります。米国経済はこれまでのところ概ね底堅さを維持しており、世界経済も依然として「十分に良好」と言える状態にあります。歴史的に見ると、資本市場は危機に際して、実体経済データや景況感指標よりも早く安定する傾向があります。これは、コロナ禍や「解放の日」で経験済みのパターンと言えます。それに加えて、AIをめぐるイノベーション見通しは、中東情勢とはほぼ無関係に、利益と生産性に対する期待を押し上げる要因として働いています。長期的には、経済の供給サイドを強化する可能性さえあります。最後に、米国の政策当局がエネルギー価格の高止まりを容認せず、必要であれば譲歩するという期待も、市場の自信を下支えしています。投資家自身の行動もある程度、下振れリスクの軽減に寄与しています。企業が引き続き融資や資金調達を円滑に行える状況が維持されており、金融環境もほとんど悪化していないという事実はそれだけで、景気後退のリスクを抑制する要因となっています。
一方で、いくつかの中期的なリスクは、過度に楽観的な見方に反する材料となっています。多くのアナリストは、ホルムズ海峡の長期封鎖といった石油・ガス供給が数カ月にわたり途絶するシナリオでは、原油価格が1バレル=150ドルを超えると予想しています。その結果、特にアジアや欧州の多くのエネルギー純輸入国において、エネルギー関連の需要破壊による景気後退リスクが高まる可能性があります。同時に、基礎化学品や希ガス類の供給不足は主要なサプライチェーンを著しく圧迫することになり、これも価格を押し上げる要因となります。インフレ面では、いわゆる第2ラウンド効果と賃金と物価のスパイラル的上昇のリスクが高まります。歴史的に見ても、2022年に生じたようなインフレショックには第2波が続くことが多く、市場はこのリスクを無視すべきではありません。
したがって、「正常化した」と言えるのは、いくつかの重要な条件が満たされた場合に限られます。すなわち、エネルギー供給が速やかに十分に緩和されること、景気後退が回避されること、そしてAIに対する信頼が損なわれないことです。これらは、さらなる市場の上昇のために欠かせない要素になるものと思われます。
自信と過信の間で揺れる現在の市場環境を踏まえると、次のような株式と債券への戦術的な配分が考えられます。
- 底堅い成長と力強い収益モメンタムを背景とした全体的な経済環境を考えると、地域・セクターを分散した株式を幅広くオーバーウェイトにするスタンスが引き続き妥当といえます。しかし、前述したように、リスク評価はいつ悪化してもおかしくありません。
- 株式市場は依然としてテクノロジーセクターが圧倒的なウェイトを占めています。AIとその関連テクノロジーのサプライチェーンがなければ、経済成長と企業業績の伸びは、米国はもちろんアジアでも、また一部の欧州サプライヤーの間でも大幅に弱まっていたでしょう。半導体銘柄やその他の機器プロバイダーを中心とするAI勝者と、知識集約型サービスやソフトウェアサービスプロバイダーなどの敗者を見極めることが、引き続き重要な決め手となります。
- 地域別に見ると、当面の間は米国株式市場を避けることは難しい状況です。新興市場株式は、いくつかの理由から依然として投資妙味があるように思われます。具体的には、指数に占めるウェイトが高い韓国や台湾などのアジア市場はAIブームの恩恵を受けており、一部の中南米市場は原油とコモディティの輸出に下支えされています。さらに東欧では、ポーランドの力強いモメンタムとハンガリーの選挙後の情勢改善期待が追い風となっています。欧州は他地域以上にイラン戦争の影響を受けやすい立場にありますが、構造改革と財政刺激策により、将来的にはアップサイドの余地があります。
- インフレ懸念による利回り上昇を受け、債券はリスクリターンの観点から、よりバランスの取れた状態となっているように見えます。成長への懸念増大とインフレ懸念の緩和は、債券にとって追い風となるかもしれません。ただし、エネルギー価格のさらなる上昇は、短期的には利回りを再び押し上げる可能性があります。
- 社債セグメントでは、国債に対するスプレッドは、前述のスプレッド縮小を受けて歴史的に低い水準に戻っています。言い換えれば、景気悪化リスクをごく限定的にしか織り込んでいないということです。
- エネルギー危機が沈静化すれば、米ドルは巨額の財政赤字と政治的不確実性などの要因に押され、今後数四半期にわたり構造的な圧力にさらされるでしょう。
少なくともポートフォリオレベルでは、こうした圧力の一部を取り除くことも可能です。配当は確実性が高いことが多く、弊社の試算が示すように、トータルリターンに有意義な貢献をします。
今週のチャート
出所:LSEG Datastream, AllianzGI Economics & Strategy、 2026年4月28日時点。
過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示すものではなく、また、将来のパフォーマンスを示唆するものではありません。
投資テーマ:配当からの投資収入
- ストックス欧州600指数を構成する企業が支払う配当金は、前年比約4%増の約4,540億ユーロに上る見込みです。ドイツ企業だけでも、配当金は2025年の推定560億ユーロから緩やかに増加し、およそ580億ユーロになると予想されています。
- これは、欧州株式市場における配当支払額の増加という、数年来のトレンドの継続を示すものとなります。
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配当は、株式投資のトータルリターンにおいて重要な役割を果たします。過去40年にわたり、MSCIヨーロッパ指数の年率換算トータルリターンに占める配当の割合は39%弱でした。比較すると、MSCI北米指数ではトータルリターンに占める配当の割合は21%弱、MSCI太平洋指数では49%強でした。
- 弊社の分析によると、配当付き銘柄への配分が高いポートフォリオは、配当性向の低い銘柄に重点を置いたポートフォリオに比べ歴史的にボラティリティが低くなっています。この効果は、配当支払い企業の方が一般により規律ある資本配分方針を採用していることと、定期的なインカム源がもたらす安定化効果を反映しています。
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重要なポイントとして、配当支払いは底堅い傾向があります。過去のデータを見ると、企業が配当を減額することは稀であり、むしろ段階的な増配、あるいは少なくとも既存の配当水準の維持を選好しています。
- その結果、配当は資本所得の比較的信頼性の高い基盤となります。
正常化、さらにはそれを超える好環境の到来が望まれます。