市場展望インサイト
長期リスクを抑えながらインカムを追求する ― 短期クレジットとトレードファイナンスの活用
主なポイント
- デュレーションを過度に取らずに魅力的なキャリーを確保:イールドカーブは2023~24年と比べてスティープ化しているものの、米ドルや英ポンド建て債券では短期ゾーンの利回りが中期ゾーンと同程度の水準を維持している。より金利変動の影響を受けずらい短期債は、長期債よりも日々の価格変動を抑えつつ、安定したインカム獲得が可能。
- パブリック市場のスプレッドはタイトな水準:さらなるスプレッド縮小余地は限定的であり、スプレッド・デュレーション(スプレッドに対する価格感応度)を伸ばすメリットは相対的に低下。一方、スプレッドが平均水準へ回帰する局面では、クレジットリスクを抑えた短期スプレッド・デュレーション戦略が優位となる可能性。
- トレードファイナンスによる分散効果:トレードファイナンスは、取引から生じるキャッシュフローによって回収される自然償還型の短期案件に投資し、インカム収益の獲得を目指す戦略であり、パブリック・クレジット市場との低相関と高い分散効果が期待される。
- 組み合わせ戦略によるレジリエンス:流動性の高い短期クレジットとトレードファイナンスを組み合わせることで、柔軟性と流動性を確保し、より低ボラティリティのキャリー収益の獲得が期待される。
1. 外部リスク(ホルムズ海峡や関税問題)は当面は管理可能と判断
当社の基本シナリオでは、世界経済は当面、底堅さを維持するものの、モメンタムは徐々に鈍化すると見ています。このような環境は、企業クレジットにとって概ね良好な環境と言えるでしょう。企業の経済活動は、多額の負債を抱える一部の発行体を除けば十分に良好であり、またグローバルな分散投資は、地域ごとの景気サイクルの違いが生じつつある環境下での投資機会の捕捉に役立つと考えています。
インフレと金利については、原油価格が不確実性の一因となっています。また、地政学やAIは引き続き中長期的なリスクとして注視が必要です。債券市場においては、政策やインフレ動向の違いにより、地域間の乖離が生じる余地が引き続きあると見ています。そのため、当社では、単一金利シナリオに投資戦略を依存させるのではなく、こうした各国の金利動向の違いから生じる投資機会(魅力的なスプレッドやキャリーの機会)に着目しています。しかしながら、バリュエーションの余裕が限られている点には引き続き注意を払っています。
2. 長期デュレーションのハードル:利回り、ボラティリティ、リスク対比リターン
イールドカーブは逆イールドから正常化に向かいつつありますが、現時点ではデュレーションを積極的に延ばす局面とは考えていません。短期ゾーンと中長期ゾーンの利回り格差は依然として限定的であり、追加的な価格変動リスク(ボラティリティ)に見合う十分なリターンが得られるとは言い難いためです。
特に、政策金利見通しの変化やタームプレミアムの上昇を背景に長期国債利回りが上昇する場合、長期債への投資はリターンの重石となる可能性があります。わずかな利回り上乗せを得るために大きなデュレーションリスクを負う構図であることを踏まえると、当面はデュレーションを短めに維持する姿勢が合理的と考えます。
一方で、債券利回りが数十年ぶりの高水準にある現在、魅力的な利回りを固定(ロックイン)すべきとの見方にも一定の説得力があります。特に、過去の超低金利環境への回帰を見込まないのであれば、その考え方は合理的といえるでしょう。もっとも、実務上は二つの留意点があります。第一に、利回りがさらに上昇した場合、長期デュレーション資産は大きな評価損に直面しやすいことです。第二に、市場が織り込む将来の短期金利が足元の中期金利と大きく変わらない状況では、デュレーションを急いで積み増す必要性は限定的です。こうした点を踏まえると、現段階では長期金利の方向性に大きくベットするよりも、柔軟性を維持しながら投資機会を見極めることが重要と考えます。
3. なぜ短期ゾーンでクレジットリスクを取るのか
投資家の中には、短期国債の利回りだけではリターン目標を満たせないケースもあります。その場合、クレジットリスクの追加は利回り向上に寄与しますが、スプレッドリスクとデュレーションリスクを考慮する必要があります。
クレジットスプレッドが長期平均よりもタイトな水準にある局面では、さらなるスプレッド縮小によるリターン余地は限定的です。信用サイクルの進展に伴い、平均回帰的にスプレッド拡大の確率が高まるとの見方が直感的にも妥当です。このような環境下では、スプレッド・デュレーションを延ばす魅力は低く、わずかなキャリー上乗せのために、価格変動リスクが大きく高まる可能性があります。
これに対し、短期クレジットは企業クレジットへのエクスポージャーを維持しつつ、金利デュレーションとスプレッド・デュレーションの双方を抑制します。そのため、短期のクレジット資産は、ボラティリティの上昇局面において、より耐性のあるポートフォリオを構築することに役立つことが期待されます。
4. 短期クレジットと併せてトレードファイナンスを活用する理由
4.1 パブリック・クレジットに対する分散効果
トレードファイナンスは、多くの伝統的な債券資産クラスと比べて、パブリック市場のクレジットや金利との相関が低い傾向があります。そのため、クレジット・ポートフォリオ全体において高い分散効果が期待されます。
取引は短期であり、実際の貿易フローの完了と連動するケースが多いため、パフォーマンスは長期のスプレッド・デュレーションを持つ資産と比べて、セカンダリー市場の影響を受けづらいことが想定されます。
下表は、トレードファイナンス戦略の米ドル建てシェアクラスと、その他の短期の米ドル建てパブリック債券資産クラスとの比較を示したものです。リターンは魅力的であり相関も低いことから、短期資産を適切に組み合わせることで、ポートフォリオの効率化を図れることが示唆されます。
リターン比較
出所:Bloomberg、2024年10月31日~2026年4月30日。日次データ、期間:546日。過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示唆・保障するものではありません。
相関マトリクス
出所:Bloomberg(2024年10月31日~2026年5月14日、日次データ)。過去の実績や予測、予想、見込みは将来の実績を示唆・保障するものではありません。
4.2 デフォルト率、回収率およびディフェンシブ特性
過去の統計によると、トレードファイナンスは長期的な企業信用格付けが同程度の他のクレジット商品と比べて、デフォルト率が低く、回収率が高い傾向にあります。
その一因として、機能的な側面が挙げられます。トレードファイナンスは企業の日常的な事業運営を支える資金であり、これが失われるとサプライチェーンの混乱や事業運営の悪化を招き、さらには企業価値の毀損に企業価値の毀損につながる可能性があります。ここれは、多くの場合、他の債権者にとっても望ましい結果ではありません。
そのため、事業そのものの継続性が大きく損なわれていない限り、企業や金融機関を含む関係者には貿易金融枠を維持するインセンティブが働きやすく、結果として比較的安定した信用パフォーマンスにつながると考えられます。
4.3 流動性:自己償却型であっても日次流動性を意味するわけではない
トレードファイナンスは、一般的に公募社債ほど高い流動性を有しているわけではありません。一方で、その投資対象は短期かつ自然償還型であることが特徴です。例えば、売掛債権(インボイス)が支払われると、当該案件に係る信用エクスポージャーは消滅します。
そのため、信用エクスポージャーを削減する際に、市場環境が悪化した局面で二次市場の買い手を探して売却する必要性は相対的に低いと考えられます。
多くの戦略では、関連する市場指標などを用いて定期的(月次など)に評価を行いますが、投資対象の残存期間が短いことから、長期のクレジット資産と比較して時価評価の下落幅やその影響が限定されやすい傾向があります。
5. ポートフォリオ構築:短期パブリック・クレジットとトレードファイナンスの組み合わせ
整合的なアプローチとして、短期のパブリック・クレジットとトレードファイナンスを、異なるリスク要因を管理しながらインカムを獲得するための補完的なツールとして捉えることが重要です。
- 短期パブリック・クレジット(債券、変動金利債、比較的高格付けのABSなど):流動性と透明性を備え、機動的にエクスポージャーを調整できる点が特徴。一般的な債券・クレジット指数と比べて、金利デュレーションおよびスプレッド・デュレーションを抑えつつキャリー収益の獲得を目指すことができます。なお、ハイブリッド証券やABSはコール条項により短期に見える場合がありますが、金利上昇局面では繰上償還されない可能性があり、想定以上にデュレーションが長期化する点には注意が必要です。
- トレードファイナンス:超短期の投資期間を通じて分散されたキャリー収益の獲得を目指し、スプレッドのボラティリティが高まる局面でも相対的にディフェンシブな特性が期待されます。その一方で、流動性は低く、構造面やオペレーションの複雑性が高いという側面があります。
- ダイナミックな配分:金利およびクレジットサイクルは流動的であるため、柔軟な運用枠組みが有効です。すなわち、スプレッドや「リターンのクッション」が魅力的な局面では流動性の高い短期パブリック債に配分し、景気後退リスクや流動性リスクが高まる局面では、より短期かつ自己償却型のトレードファイナンスにシフトする、といった相対価値に基づく運用が考えられます。
6. 主なリスクと実行上の留意点
短期パブリック・クレジットとトレードファイナンスを補完的に組み合わせるアプローチは有効ですが、以下の点に留意が必要です。
- スプレッドおよび時価評価リスク(パブリック・クレジット):短期であっても、ストレス時にはスプレッドが急拡大する可能性があり、市場が借換えではなく回収価値に注目する局面では、短期債が相対的に劣後することがあります。
- 延長リスクおよびストラクチャーリスク(証券化商品/ABS):コール前提や想定満期ベースで評価される証券でも、借換えの経済合理性が低下すると償還が延び、期待リターンが損なわれる可能性があります。
- 流動性リスク(トレードファイナンス):基礎資産は短期であるものの、ファンドレベルでの解約条件や資金回収のタイミングには制約がある場合があり、投資配分は流動性ニーズと整合させる必要があります。
- オペレーショナルおよび与信審査リスク(トレードファイナンス):運用成果は、案件組成の規律、債務者の分散、契約書面、サービシング体制、内部統制などに大きく依存します。そのため、運用会社の選定が極めて重要です。
- マクロ環境の変化:イールドカーブの再スティープ化やスプレッドの大幅な拡大が起きた場合、短期志向を維持することの機会コストが高まる可能性があります。このため、固定的ではなく、状況に応じて配分を見直すダイナミックな運用が望まれます。
7. 結論
イールドカーブが正常化しつつある中でも、現在の利回り水準とタイトなクレジットスプレッドは、引き続き短期デュレーションかつインカム重視のアプローチを支持しています。
米ドルおよび英ポンドでは、短期ゾーンの利回りが中期ゾーンに対して依然として競争力を有しており、投資家は過度なデュレーションリスクを取ることなく、魅力的なインカムを確保することが可能です。
一方で、スプレッドはタイトな水準にあるため、さらなる縮小によるアップサイドは限定的であり、スプレッド・デュレーションを延ばす魅力は低下しています。このため、スプレッドが平均水準へ回帰する局面にも耐性を持ちやすい、より低ボラティリティのエクスポージャーに価値があると考えます。
こうした枠組みの中で、短期のパブリック・クレジットとトレードファイナンスは相互補完的な関係にあります。パブリック市場は流動性と柔軟性を提供し、トレードファイナンスはスプレッド・デュレーションが小さい、よりディフェンシブで自己償却型のキャリー源をそこへ加えます。
両者を組み合わせることで、分散を効かせながら投資を継続し、インカムを創出しつつ、金利およびクレジット環境の変化に柔軟に対応することが可能となります。