日本株月次レポート:2026年6月

インフレボーナスの賞味期限

5月中旬、日本の10年国債利回りが上昇し、金利上昇に脆弱とみられる割高・成長株や不動産株が一時下落しました。エコノミストの分析によるとこの金利上昇は、原油高の影響を考慮しても期待インフレ率の寄与が不自然に大きく、補正予算による財政懸念としてもファンダメンタルズでの説明は困難であり、“投機筋の売りが主因の可能性”が指摘されています。(注1)

短期的な需給要因で動いた価格はいずれ裏付けのある水準に戻るとすれば、一時的に急騰した10年債利回りは一服する可能性があるとみられているようです。一方、中長期的には、“政府の1%超の潜在成長率目標と2%のインフレ目標を踏まえれば、3%の金利水準は決して驚くべき水準ではない”とのストラテジストの指摘も多くあります。(注2、3)

2026年年初、ほぼすべてのストラテジストが日本の株式市場の上昇を予測していました。さまざまな理由が挙げられていましたが、物価上昇で名目成長率が高まる中、金利水準が依然として緩和的であるということが、共通する根拠でした。政府の側からみると、インフレ局面では税収が増えやすく名目GDPも膨らむため、債務のGDP比は自動的に改善し、財政の見た目はよくなっていきます。いま日本は、そのボーナスを享受している局面といえます。

インフレボーナスを潜在成長率の引き上げに転換することが、本来の課題と思います。潜在成長率を高めるには、生産性の向上、技術革新への投資、規制緩和による新陳代謝の促進など、時間のかかる取り組みが必要です。賃上げが消費を支え、設備投資が生産性を高めるという循環が生まれれば、長期金利が上昇しても、成長力との見合いで財政懸念は和らぎます。その循環が生まれなければ、物価高で疲弊した家計と改革を先送りにした財政が残り、高い請求書があとから届くことになりかねません。

日本全体・政府の観点からは、既存債務の多くは低金利で発行されているため、実際の利払い負担の上昇ペースは市場金利の動きほど速くありません。(注4) この時間的な猶予をどう活用できるか注目していきたいと思います。

個別企業の観点からも、価格転嫁力のある企業は、インフレ局面で利益の底上げを享受できています。人件費など固定費の増加も価格転嫁できれば利益率は維持・向上させることができると考えます。インフレが生み出す余力を、実質の競争力強化に再投資できているかという点に着目し、活発な設備投資、研究開発、人的投資、事業ポートフォリオの組み替えなどに期待しています。

金利上昇にともない企業の資本コストも上昇していくことが予測されるため、ROIC(資本収益率)とWACC(加重平均資本コスト)のスプレッドを分析し、その改善に向けた施策を開示して資本市場にメッセージを送ることが、企業にとってますます重要になると考えます。投資家の観点からは、資本コストを考慮したうえで事業構造の見直しや資本配分の改善に取り組む企業であれば、自律的な価値創造を志向した経営が機能していると判断できます。

ボーナスがあるうちに、ボーナスに依存しない体質をつくるという経営施策が投資家にとっては銘柄選択の軸となります。個別銘柄を丁寧に吟味するという長期投資の本質的な役割が重要となると考えます。

注1:出典:SMBC日興証券、「エコノミストメモ」・転載許諾済
注2:出典:内閣府 中長期の経済財政に関する試算(令和7年8月7日経済財政諮問会議提出)
注3:出典:JPモルガン証券、「日本株ストラテジー」、2026年5月21日・転載許諾済
注4:出典:令和8年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算 令和8年2月 財務省

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