そろそろテクノロジーセクターを見直す時期?

昨年はテクノロジーセクターにとって厳しい1年となりましたが、2023年はどうなるでしょうか。世界的な景気減速の懸念によって地合いが悪化する中でも、人工知能(AI)やメタバース、サイバーセキュリティといった、最近広がりつつある変革技術に関連するテーマに焦点を当てている長期投資家には特に、投資機会が訪れると弊社はみています。

要点
  • 2022年は苦境に立たされたテクノロジーセクターですが、地合い、そして企業のIT支出が回復すれば、もう少し落ち着いた1年になる可能性があります。
  • 相場の下落によって多くの銘柄はすでにかなりの割安水準で取引されており、嵐を乗り切った銘柄の間に選択機会が出現すると考えられます。このような環境では収益力がますます重要になるでしょう。
  • 足元の見通しは不透明かもしれませんが、投資においては引き続き、人工知能、メタバース、サイバーセキュリティなどの構造的な成長トレンドに備えたポジションを取るのがよいと考えられます。

急騰であれ急落であれ、ハイテク株はしばしば金融ニュースのトップを飾ります。2022年は、ハイテク企業にとって特に厳しい1年となりましたが、今年後半には地合いが改善し始める可能性があると弊社はみています。一方、長期投資の場合は引き続き、日常生活に不可欠な存在になりつつある人工知能などの変革技術を中心にポートフォリオを構築することが可能です。

長期的に見ればテクノロジーセクターは強いものの、短期的には投資家に相当の痛みをもたらしています。この12カ月というもの、テクノロジーセクターは利上げと成長の減速に対する懸念から低迷しています。新型コロナ禍の巣ごもりブームが去った後、このセクターは世界経済の「再開」によって特に大きな打撃を受けています。ハイテク株比率の高いナスダック100指数は2022年、3分の1近くも下落しました(図表1参照)。個別銘柄の中にはそれ以上下落したものもあり、多くの銘柄がかなり割安な水準で取引されています。

しかし、セクターが「割安」に見えるとしたら、それには十分な理由があります。長期的な成長資産であるハイテク銘柄は、金利上昇によって資金調達に再びコストがかかるようになったことで大きな打撃を受けています。それに加えて、企業のIT支出の見通しは不透明です(「ゲストの見解」を参照)。このような逆風が一夜にして消える可能性は薄いでしょう。また、今年の景気減速が一部の国で予想通りリセッション(景気後退)につながった場合、さらに株価が下がる可能性があります。

しかし、企業のファンダメンタルズは堅調を保っていることと企業が事業のスケーラビリティを高めていることを考えると、ドットコムバブル時に見られたように相場の下落が長引く可能性は低いと考えられます。さらに、IT支出のさまざまな側面も堅調を保つでしょう(図表2参照)。裁量的なITプロジェクトは景気に対する懸念から取りやめになるとしても、企業はビジネスサイクルごとにテクノロジー支出を増やしていかなければなりません。これは特に、ミッションクリティカルなハードウェア、ソフトウェア、サイバーセキュリティ分野に当てはまります。

現代社会は次第に、「デジタル・ダーウィニズム」の世界になりつつあります。この世界では、どのセクターであれ、AIなどのテクノロジーを活用できるかどうかが企業の競争優位性に極めて重要となります。テクノロジーに遅れを取らないことは、不可欠の条件です。

さらに、2023年に利上げがピークを迎えれば、セクターのパフォーマンスの転換点となり、投資家にとって魅力的なエントリーポイントとなる可能性があります。

図表1:ハイテク株比率の高いナスダック100指数を構成する企業の株価収益率(PER)

出所:Nasdaq 100 index, Siblis Research. 2023年1月24日現在のデータ

2023年は、収益の強さと質がいっそう重要に

この環境では、投資家として厳しく選別して損はありません。短期的には痛みを伴うものの、高金利環境という「ニューオールドノーマル」への移行は最終的には、このセクターの投資家の助けとなる可能性があります。

なぜでしょうか。その理由は、無尽蔵にあるコストの安い負債を利用してとにかく成長を追求する企業が報われるという時代は終わったからです。資金調達に再びコストがかかる世界では、企業は利幅と収益をいかに守るかに専念します。これは、経営がしっかりしていて、優れた商品を提供し、ファンダメンタルズが健全な、質の高い企業がトップに立つことを意味します。そうした企業は、投資に値する銘柄になる可能性があります。

全体として、今年のテクノロジーセクターは底堅い収益を見せるようになり、下半期には地合いが上向く可能性があると弊社は予想しています。多くのハイテク企業は、新型コロナ禍以降、政府の景気刺激策によって消費者と企業の支出ブームが起こった時期に業績を大きく伸ばしましたが、そのペースを維持することができませんでした。2023年は、そうしたベース効果が一巡し、セクターのファンダメンタルズは改善し始めるでしょう。

とはいえ、グローバル経済に対する懸念が渦巻く中、投資家は将来の収益におけるいくつかの弱点について備えておく必要があります。状況によっては、売上高の伸びと利幅が圧迫されるかもしれません。しかし、ハイテク企業を含め成長銘柄は、景気が冷え込みつつある中でも景気循環株に比べて粘り強い収益力と堅調な利益率を維持する傾向にあります。このような環境では、収益を伸ばすことができるか、少なくとも維持することができる企業を特定する能力が物を言うことになります。

図表2:ガートナーによる、世界のIT支出の成長予測(%)

出所:Gartner (January 2023)

これからの1年を使って、3つの長期トレンドに備える

2023年は、不透明な現状の先を見据えて、グローバル経済の未来を推進する可能性のある確度の高いトレンド、そしてハイテク企業が不可欠な役割を果たす領域に焦点を当てた投資も考えられます。以下に3つの例を挙げます。

  • AI:農業からヘルスケアまで、テクノロジーセクター以外の企業の間で、コスト削減のためであれ、収益の強化あるいは顧客エンゲージメントの向上のためであれ、AIの導入が進んでいます。マッキンゼーのAIに関する2022年グローバルサーベイの結果は、AIを少なくとも一つのビジネス機能に組み込んでいる企業の割合が過去5年間で20%から50%に増えていることを示しています。AI関連技術に対する信頼と依存が高まるにつれ、AIインフラ(ビッグデータ、クラウド、IoT)、AIアプリケーション(インテリジェントオートメーション、ディープラーニング、ソーシャル)、AIを活用する産業(農業、自動車、製造、ヘルスケア、教育)も長期的に成長していくと予想されます。流暢な文章を生成するチャットボットのようなツールの登場により、AIの実生活への応用が多くの人々の目に明らかになりつつあります。
  • メタバース:オンラインゲームやフィットネス、ビデオ通話からデジタル通貨まであらゆるものを包含するメタバースは、デジタルと物理的領域をシームレスに接続する新たなフロンティアです。メタバースへの移行は、私たちが過去に経験したデスクトップからモバイルコンピューティングへのシフト、あるいは対面からバーチャルアプリケーションへのシフトに類似しています。ウェブ3.0は、メタバースへの移行を可能にし、より分散的かつ没入的で、より多くのユーザー生成コンテンツが流通するインターネットを実現させるかもしれません。メタバースに進出する企業が増える中、このセクターの企業の総売上高は25~30兆米ドルに到達する可能性があります。しかし、この革新はまだ始まったばかりであり、この移行に先んじたポジションを取る投資家は、数十年にわたって続く可能性のあるトレンドに乗じることができるでしょう。メタバースは現実のものであり、これからも続いていくことは間違いありません。
  • サイバーセキュリティ:デジタルデータの爆発的増加と、複数のセキュリティ層にわたって攻撃を防ぐ必要性が相まって、個人や企業だけでなく政府にとっても、サイバーセキュリティが喫緊の課題となりつつあります。「接続性の時代」と呼ばれる現代において、ネットワークとデータの保護は急務です。新型コロナ禍後のフレキシブルな勤務形態への移行と、IoTがスマートフォンからスマートグリッドまで多種多様なデバイスに広がったことで、より多くの脆弱性が生じており、サイバー攻撃を受けた場合、多大な損害を被るばかりか、破壊的な影響が及ぶ恐れもあります。こうした状況に対応するために企業が2021年にサイバーセキュリティに費やした金額は、マッキンゼーによれば、1,500億米ドルに上りました。しかし、グローバル市場はその金額の10倍ほどに成長する可能性があります。

長期的な機会を求めて、巨大テック企業以外に目を向ける

「ハイテク」と聞くと、私たちの日常生活の一部になっている超有名企業を連想する投資家が多いかもしれません。しかし、このセクターの事業機会はそれよりはるかに深く広く存在し、ヘルスケアや産業などの領域にも及んでいます。ハイテク銘柄は、世界の主要な株価指数の重要な構成銘柄であり、分散した長期的なポートフォリオにおいて必要不可欠な役割を果たすことができます。また、中国は自給自足を目指す取り組みの一環として技術革新に注力しており、投資家にとって長期的な機会を生み出す可能性を秘めています。

2023年は、市場がさらに乱高下する可能性がありますが、投資家はこの1年を、長期的に経済と社会に恩恵をもたらす革新的な構造的トレンドに備えたポジションを取る時期として活用することができるでしょう。

ゲストの見解:ヴォヤ・インベストメント・マネジメント

テクノロジーセクターへの再参入のタイミングを計るために注目すべきシグナル

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エリック・ソーズ
リード・ポートフォリオ・マネジャー、ヴォヤ・インベストメント・マネジメント


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ブランドン・マイケル
クライアント・ポートフォリオ・マネジャー、ヴォヤ・インベストメント・マネジメント


苦境に見舞われたテクノロジーセクターに幻滅を感じているハイテク投資家は、見通しが明るくなると同時に出現する以下のシグナルに目を向けるとよいかもしれません。

  1. IT支出の水準に注目する
    企業のIT支出に関する一部の予測は、2023年に支出が5%近く伸びるとしていますが、そのような数字は短期的には非現実的と思われます。経済的な不透明感の中、企業がミッションクリティカルなIT資産に集中していることから、裁量的なITプロジェクトは、厳しく精査されるようになり、延期されたり中止されたりしています。このトレンドは2023年前半も続き、改善の兆しが見えるのは後半になってからと予想されます。IT支出予測と、過去と比較した銘柄の業績見通しを合わせて評価することは、投資家の地合いを判断するのに良い材料となると思われます。
  2. M&Aの増加は、関心を呼び起こす可能性
    M&Aの活発化は、テクノロジーセクターの幅広い回復の始まりとなり、魅力的な再エントリーポイントを示唆する可能性があります。株価が歴史的な高値から中間的な水準以下に下落したことから、プライベートエクイティ会社や潤沢なキャッシュを持つ投資家は、強いビジネスモデルを持つ銘柄を割安な価格で拾えるかもしれません。モリソン・フォースターとマージャーマーケットが実施したアンケート調査によれば、ほとんどのプライベートエクイティ会社と企業が2023年はディール件数が増えると予想しています。M&A活動の増大は、地合いに波及効果を及ぼし、収益成長とともに株価収益率(PER)が上昇するサイクルが始まるかもしれません。
  3. 安定したキャッシュフローを生み出す銘柄を探す
    短期的には、支出環境が不透明なことを勘案すると、PERが有利に働きそうな企業、つまり同業他社に比べ割安な銘柄か、あるいは長期的な需要要因を踏まえ投資家がプレミアムを支払ってでも買おうとする銘柄が望ましいでしょう。将来の成長予想が低く見積もられているレガシーなソフトウェア企業もそうした銘柄であり、その多くはテクノロジーセクターにおいて相対的に高パフォーマンスを上げています。その他に有利な銘柄としては、サイバーセキュリティとクラウドベースの企業が挙げられます。これらの企業は、強いビジネスモデルを持ち、株価が歴史的な平均を下回って推移しており、長期的な成長の追い風に乗っています。

    要約すると、この環境ではアクティブ投資のアプローチが必要と考えられます。アクティブマネジャーは、トップダウンのテーマ別トレンドと、ボトムアップのファンダメンタルズベースの投資を組み合わせてポートフォリオを構築することができます。また、さまざまな市場環境に適応し、個別銘柄のレベルで分散を図ることもできます。こうした要素はいずれも、変化しつつある環境において極めて重要なものとなります。

1出所:McKinsey, December 2022 – The state of AI in 2022--and a half decade in review | McKinsey
2出所:McKinsey, October 2022 - New survey reveals $2 trillion market opportunity for cybersecurity technology and service providers | McKinsey
3出所:Piper Sandler 2023 CIO Survey(主に北米のIT意思決定者128人を対象とする2022年12月のアンケート調査に基づく)
4出所:Morrison Foerster/Mergermarket Tech M&A Survey - MoFo Survey: Tech M&A Marches On; Dealmakers Navigate Market Uncertaintyby Targeting New Sectors | Morrison Foerster

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