雇用機会に溢れた不況?

8月5日(金)に発表された米国の労働市場統計は、ここ数週間の成長鈍化のシグナルに反して、とても強い結果となりました。雇用者数は52万8千人(コンセンサス:25万人)と大幅に増加し、失業率はパンデミック前の低水準である3.5%に低下、平均時給は0.5%まで上昇しました。雇用の創出は広範囲に及び、主要産業での減少も見られませんでした。建設業や製造業が逆風にさらされているなか、サービス業、専門的ビジネスサービス業が雇用の増加を牽引し、同業種では賃金の伸びも見られました。労働参加率が0.1ppマイナスの62.1%に低下したことが少々気がかりですが、それは労働市場の需給バランスが崩れているという見解を変えるものではありません。

米国の依然として非常に高い雇用コスト指数や、個人消費支出価格指数(PCE)の継続した加速が、7月米国雇用統計を力強いものとしました。これらは米連邦準備制度理事会(FRB)に解釈の余地をほとんどあたえず、インフレ圧力が継続する恐れがあります。コモディティ価格は高値から下落していますが、FRBは非コア価格へのコストプッシュ型の圧力が緩和されても、より懸念される、逼迫した労働市場と賃上への圧力によって深刻化した、コア価格へのデマンド・プル型の圧力を相殺することは出来ないだろうとみています。

仮に、米国経済が景気後退に陥っているとした場合、(厳密には恐らく景気後退に陥っている)、雇用が大幅に減少するという予想に反して、「雇用機会に溢れた」不況となるでしょう。雇用増加のペースは加速し、2022年の第二四半期には月々38万4千だった雇用が7月には52万8千もの雇用を創出しました。これによって米国の雇用水準はパンデミックのピークを迎える前の2020年2月まで回復しています。7月の米国雇用統計は短期的な景気後退リスクが低いこと示唆しており、最近発表された他の指標も、国内需要の減速への軽視の兆候がみられます。ISMサービス業PMI指数は予想に反して1.4ポイント上昇の56.7ポイント(コンセンサス:53.5)となり、これはサービス業が引き続き好調であることを示しています。工場受注は同月比2%増と好調で、7月の自動車販売台数は1千340万台(年率換算)まで増加しました。7月のISM製造業指数は2年ぶりの低水準(52.8)に落ち込みましたが、サービス業の緩やかな成長と一致する水準を保っています。

粘り強い経済成長と物価上昇圧力の持続の観点から、近々行われる連邦公開市場委員会(FOMC)で、FRB がタカ派的なスタンスを維持するだろうと予想しています。景気後退リスクの高まりとインフレ圧力の低下により、FRBがハト派に傾くという市場の事前予想は修正される可能性もあると私たちは見ています。

今週のチャート
US non-farm payroll (monthly)
 
chart-W32

Past performance and forecasts are not a reliable indicator of future re-sults. Source: Factset and AllianzGI

来週を考える

来週の経済指標の発表により、世界の主要国経済の成長とインフレの状況について、より深い洞察が得られると思われます。

月曜日には、工業生産、小売売上高、固定資産投資などの7月の中国のマクロ成長データが発表される予定です。市場は、2022年下半期の回復の中で、成長モメンタムの継続的な回復を期待しています。また、日本では2022年第2四半期のGDP(国内総生産)と6月の設備稼働率も発表される予定です。それにより日本経済の現在の成長状況が判断されるでしょう。市場は、日本の第2四半期のGDPが、第1四半期の穏やかな縮小を背景に回復すると予想しています。米国では、月曜日にNY連銀製造業景況指数とNAHB住宅市場指数が発表される予定で、市場は減速が見られるだろうと予想しています。

今週は、さらに多くの米国データが発表される予定です。火曜日には、建築許可や住宅着工など、7月の米国住宅関連データが発表される予定であり、市場は前月に引き続き減少が見られるだろうと予想しています。また、7月の鉱工業生産と設備稼働率も発表される予定で、それらは安定の兆しが見られるかもしれません。水曜日には、7月の小売売上高とFOMCの議事録が発表される予定です。それによって米国の消費者需要を肌身に感じ、最新の評価を見ることでFRBの考え方が垣間みえるでしょう。今週は、木曜日の米国新規失業保険申請件と7月中古住宅販売件数の発表が終盤で控えています。

テクニカルについて

今週は、全般的に弱い経済指標と共に底堅いインフレ指標が見られるでしょう。最近、株式市場が上昇する一方で出来高が下がっており、ベアマーケット・ラリー(弱気相場)であることを示唆しています。機関投資家も様子見の姿勢であり、相場はシステム投資家と投機的な個人投資家に主導されているようで、ショートカバーも価格上昇の要因となっているでしょう。下げ止まりの末に、再度下落に転じることも否定できないでしょう。

 


皆さんがインフレに陥らずに経済回復出来ますように。

 

クリスティアン・タントノ
シニアエコノミスト、アジア太平洋地域

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